研究課題/領域番号 |
23500016
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷川 真人 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (50293973)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ソフトウェア学 / プログラム理論 / プログラム意味論 / トポロジー / 量子不変量 |
研究概要 |
再帰プログラムや巡回データ構造を用いた計算,また双方向に情報をやり取りする計算は,それぞれ,「再帰プログラムの幾何」および「相互作用の幾何」として,巡回的な構造を持つ数学構造(トレース付きモノイダル圏)を基礎として捉えられる.一方,そのような数学構造は,結び目の量子不変量を中心とした低次元トポロジーの近年の発展(量子トポロジー)においても重要な役割を果たしてきた. 最近,再帰プログラムの幾何・相互作用の幾何と、量子トポロジーの両方の特徴を合わせ持つトレース付きモノイダル圏(リボン圏)の具体的な例が,研究代表者によって構成された.本研究では,この最近の成果を出発点として,プログラミング言語の意味論を量子トポロジーの知見と有機的に組み合わせることにより,位相的量子計算など新しい計算パラダイムに対応したプログラム意味論の構築(プログラム意味論の量子化)を行うことを目指している.本年度は,本研究の基礎となる数学的手法の開発と整理を中心に行なった.具体的には,主に再帰プログラムの幾何・相互作用の幾何と量子トポロジーの間の橋渡しとなる具体例の構成,関連する圏論や数理論理学および位相幾何学の手法および類似する例の整理,そして従来のプログラム意味論との関係の整理に取り組んだ.成果の公表に関しては,まず,上述の例に関する論文を改訂し,査読のうえ学術誌に受理された.この論文は近日中に掲載される予定である.また,国内のプログラミング言語に関する研究集会にて,本研究に関する招待講演を行った.その他に,数学セミナー誌に,プログラム意味論と圏論に関する一般の読者向けの解説記事が掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画どおりに進展している.本研究の最初の論文は2011年11月までに査読と改訂が完了し,受理された.2012年4月に最終校正を行い,まもなく出版される見込みである.ただし,具体例の構成においては,当初予想していなかった技術的な問題をいくつか見出しており,今後それらの解決していく必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
プログラム意味論に量子トポロジーの成果を取り込むことにより具体的かつ興味深い応用例を与えることを目指す(プログラム意味論の量子化).もっとも重要性の高い応用として,プログラム意味論の量子化の,位相的量子計算との関係を調べる.数学的には,位相的量子計算は,トレース付きモノイダル圏・リボン圏に条件を付加した状況(モジュラー圏)を用いて解釈される.そこで,モジュラー圏の,プログラム意味論の量子化における位置づけを重点的に調べる.ただし,モジュラー圏の概念をそのまま用いてプログラム意味論を行うことは困難だと考えられるので,プログラム意味論としての意義と,位相的量子計算のモデルとしての意義とを両立させられるよう,モジュラー圏の概念を適度に緩めた状況を調べる.並行して,従来の計算の理論,特に領域理論などを用いた表示的意味論との比較を行なう.特に,正規関手・解析関手に基づいたモデルの理論の量子化の可能性を調べる.
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次年度の研究費の使用計画 |
国内外の研究者との討論を多く持ち,また国際学会などでの発表および情報収集に努めるため,旅費を使用する.また,研究の効率的な遂行に必要な計算環境を整えるため,必要なソフトウェア等(場合によっては適切なパーソナルコンピュータ)を購入する.その他に,研究の遂行に必要な図書等を購入する.なお、次年度使用額(493,522円)は、2012年度および2013年度の、主に旅費に使用することを念頭に置いたものである.
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