研究課題/領域番号 |
23500016
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷川 真人 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (50293973)
|
キーワード | ソフトウェア学 / プログラム理論 / プログラム意味論 / トポロジー / 量子不変量 |
研究概要 |
再帰プログラムや巡回データ構造を用いた計算、また双方向に情報をやり取りする計算は、それぞれ、「再帰プログラムの幾何」および「相互作用の幾何」として、巡回的な構造を持つ数学構造(トレース付きモノイダル圏)を基礎として捉えられる。一方、そのような数学構造は、結び目の量子不変量を中心とした低次元トポロジーの近年の発展(量子トポロジー)においても重要な役割を果たしてきた。 最近、再帰プログラムの幾何・相互作用の幾何と、量子トポロジーの両方の特徴を合わせ持つトレース付きモノイダル圏(リボン圏)の具体的な例が、研究代表者によって構成された。本研究では、この最近の成果を出発点として、プログラミング言語の意味論を量子トポロジーの知見と有機的に組み合わせることにより、位相的量子計算など新しい計算パラダイムに対応したプログラム意味論の構築(プログラム意味論の量子化)を行うことを目指している。 本年度は、前年度から継続して数学的手法の開発と整理を行うとともに、既存のプログラム意味論との比較を行い、またプログラム意味論の量子化の可能性について調べた。 既存の意味論との比較では、古典線形論理の圏論的モデルがトレースを持つのは、実はそれがリボン圏の特殊な場合になっているときに限られることを突き止め、この結果を論文にまとめた。プログラム意味論の量子化の可能性については、ゲーム意味論で用いられる圏においてリボンホップ代数を構成することによりゲーム意味論を量子化することを目指し、研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画どおりに進展している。ただし、個々の話題に関しては、予想を大幅に上回って進展したものがある一方、予期せぬ技術的問題が見つかり予想ほどの成果に達していないものもある。 本研究の最初の論文(プログラム意味論と量子トポロジーの両方の特徴を合わせ持つ最初の具体例を与えるもの)は2012年8月に学術誌に掲載された。 また、古典線形論理の圏論的モデルがトレースを持つような場合については、予想以上に明快な特徴付けが得られた。この成果を報告した論文は査読も順調に進み、2013年4月に学術誌に掲載された。このように、既存の意味論との比較については極めて順調に進んでいる。 一方、ゲーム意味論の量子化については、具体的な例の構成が決して容易でないことが明らかになり、現在もまだ完全な解決には至っていない。しかし、技術的な問題点はほぼ把握できたと考えており、今後短期間に大幅に改善できると期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、プログラム意味論に量子トポロジーの成果を取り込むことにより具体的かつ興味深い応用例を与えることを目指す。特に、ゲーム意味論の量子化の研究を進める。 また、重要性の高い応用として、プログラム意味論の量子化の、位相的量子計算との関係を調べる。数学的には、位相的量子計算は、トレース付きモノイダル圏・リボン圏に条件を付加した状況(モジュラー圏)を用いて解釈される。そこで、モジュラー圏の、プログラム意味論の量子化における位置づけを重点的に調べる。ただし、モジュラー圏の概念をそのまま用いてプログラム意味論を行うことは困難だと考えられるので、プログラム意味論としての意義と、位相的量子計算のモデルとしての意義とを両立させられるよう、モジュラー圏の概念を適度に緩めた状況を調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
国内外の研究者との討論を多く持ち、また国際学会などでの発表および情報収集に努めるため、旅費を使用する。 また、研究の効率的な遂行に必要な計算環境を整えるため、必要なソフトウェア等(場合によっては適切なパーソナルコンピュータ)を購入する。 そのほかに、研究の遂行に必要な図書等を購入する。 なお、今年度は当初計画していた海外出張を一件見送ったために、次年度への繰越が生じた。これは次年度に予定している海外出張の旅費等に使用する。
|