研究課題/領域番号 |
23500018
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岩本 宙造 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60274495)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 計算の複雑さ |
研究概要 |
n変数の関数f(x1,x2,...,xn)に対して,素子数がnの3乗の回路を,設計したとする.はたして,良い回路が設計できたかどうかは,どのように評価すれば良いだろうか.たとえば,任意に小さい定数ε>0に対して,素子数がnの(2-ε)乗の如何なる回路でも関数fは計算できないといった最適性が,理論的に証明できればいいのだが,その証明は非常に難しいことが知られている.さらに,そのような具体的な関数fが実際に存在するか否かさえも分かっていない.本研究の目的は,回路の素子数や段数に基づく計算複雑性クラスの階層定理を証明することや,クラス間の包含関係を明らかにすることである.そして,クラスの階層の間に存在する真に難しい関数を人工的に作成し,システム評価に役立てる.2011年度の研究では,計算機モデルとして,一様論理回路族に着目した.論理回路のゲート数や段数,非決定性ゲートの有無が,計算能力にどのように関係しているのかを明らかにした.具体的には,ゲート数がnの多項式,深さが多項式対数の任意の非決定性回路族は,非決定性ゲートを多項式の範囲で増やすことで,深さをO(log n)まで小さくできることが証明できた.この結果から,二つの複雑性クラスの関係NNC1(poly)=NNC(poly)が導かれた.また,非決定性チューリング機械で定義される複雑性クラスと,非決定性回路族のクラスの関係を調べた.その結果,g(n)回の非決定性動作を行うt(n)時間s(n)領域1テープ非決定性チューリング機械を模倣する対数一様論理回路族で,深さがO(t(n)log s(n)),ゲート数がO(t(n)s(n)),非決定性ゲート数がg(n)のものが設計できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(a) 一様論理回路族と非決定性チューリング機械に基づく計算複雑性クラスについて,包含関係の導出が,予定より早く,年度前半に完了できた.(b) 物体の分解可能性に関する問題について,計算複雑性がNP困難であるような具体的問題を複数発見することができた.また,多面体上の可視性問題に関して,複雑性の下限を証明することができた.(c) 以上の研究成果が,国際学術雑誌に3件,国内学術雑誌に1件,国際会議に1件採択された.また,それらとは別に2件の論文が,現在投稿中となっている.
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今後の研究の推進方策 |
2011年度は,複数の計算複雑性クラス間の包含関係を,主として研究した.次年度は,クラスの階層性について研究を進める.具体的には,論理回路の能力は,素子数(または段数)をほんのわずか増やすだけで,真に上昇するという計算複雑性クラスの階層定理を理論的に証明する.これは,任意に小さい定数ε>0に対して,素子数がnのr乗の回路で計算でき,かつ,nの(r-ε)乗の如何なる回路でも計算できないn変数関数f(x1,x2,...,xn) の存在性の証明を意味する.次に,その階層定理に基づいて,計算複雑性クラスを分離する具体的な関数fを作成する.さらに,その具体的関数fを用いて,自動設計システムを実験的に評価できるようにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度は,研究成果が国際会議に年度末に採択された.その旅費を科研費から支出することになったため,システム評価に使用するワークステーションは,2012年度の助成金の一部を利用して購入することになった.また,自動設計システムの実験的評価では,さまざまな関数に対して,回路の素子数や段数といったデータをとる必要がある.生成した回路や実験データは,当面は,研究室所有のディスク装置で保存し,データ量の増大に伴って,新しいRAID装置を導入する.
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