研究課題/領域番号 |
23500020
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
宮野 英次 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (10284548)
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キーワード | 離散最適化問題 / 近似アルゴリズム / 近似困難性 / 正則誘導連結部分グラフ抽出問題 / グラフ有向化最適化問題 / ソーティングバッファ最適化問題 / NP困難問題 / 直径を制約とした最適部分グラフ抽出問題 |
研究概要 |
本研究の目的は,困難な離散最適化問題を対象とした計算モデルの構築,計算理論的解析に裏付けされた解精度保証のあるアルゴリズム設計手法の開発,及び問題自体が有する解精度の意味での困難性の解明を行うことである.今年度の主な研究成果は以下である.1.頂点数を最大とする正則誘導連結部分グラフを求める最適化問題について,求める解のサイズをパラメータとしたパラメータ版の問題を考えたとき,次数が3の正則誘導連結部分グラフを求めるときにも計算困難となることを示した.また,解精度の意味での近似困難性の改善を行った.2.入力を重み無し無向グラフとするグラフの有向化最適化問題の中で,有向グラフの出次数が指定した値Wよりも大きくなる/小さくなる頂点の数を最大化/最小化する最適化問題について考えた.本問題は,Wの値により,代表的なNP困難問題である最大独立頂点集合問題,最小頂点被覆問題と等価な問題になるという意味で,これらの問題を一般化した問題と考えることができる.様々なWの値に対して,解精度保証のある近似アルゴリズムの開発,解精度の意味での近似困難性を示した.3.複数の種類の仕事が次々に与えられたとき,その仕事を一時的にバッファに蓄え,同種の仕事を連続して処理することで,処理の切替オーバーヘッドを失くし,全体の処理時間を小さくすることを目的とするソーティングバッファ最適化問題について考え,NP困難性を示した.4.直径を制約とした最適部分グラフ抽出問題について,強弦グラフ,弦グラフ,弱弦グラフ,区間グラフを入力集合とする場合には計算が容易になることを示した.それぞれの研究成果については,国内外論文誌,国際会議,国内学会の研究会で公表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,(I)NP困難問題と呼ばれる多項式時間で最適な解を求めるためのアルゴリズムを持たないであろうと予想されている最適化問題,及び(II)入力インスタンスの情報の一部が与えられていない(もしくは利用できない)最適化問題,すなわち,情報が不完全な形で与えられるために最適解を求めることが困難な最適化問題の2種類の困難な離散最適化問題を対象とした計算モデルの構築,計算理論的解析に裏付けされた解精度保証のあるアルゴリズム設計手法の開発,及び問題自体が有する解精度の意味での困難性の解明を行うことである. (I)については,正則誘導連結部分グラフ抽出問題,無向グラフの有向化最適化問題,直径を制約とした最適部分グラフ抽出問題,ソーティングバッファ最適化問題,最大独立頂点集合問題を拡張した最適化問題に関して,計算容易性/困難性,計算理論的解析に裏付けされた解精度保証のあるアルゴリズム設計,固定パラメータに対する計算量解析などを行いそれらの研究成果を,AAAC年次総会や東京,ギリシャ,カナダで行われた国際会議,電子情報通信学会やOR学会の支部大会や研究会,LAシンポジウムにおいて発表した.また,国内外の論文誌でも公表をした. (II)については,W-CDMA方式で用いられる直交可変拡散率(OVSF)符号割当をオンライン情報モデルとして定式化したオンラインOVSF符号割当問題に対して,解精度の尺度である競合比と計算リソースとの関係を調べた.研究成果については国外論文誌に掲載されることが決まっている.このように,当初の計画通りに進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度および今年度と順調に進んできてきた.今後も,これまでと同様の手法と手順で研究目標の達成を目指す.近似精度,競合精度の上界と下界に存在するギャップは徐々に小さくしていくしかないと思われるため,近似アルゴリズム,競合アルゴリズムの改良と近似下界,競合下界の証明法の改良を繰り返しながら研究を進めていく.今後も,米国における国際会議STOC,FOCS,及びSODA,欧州における国際会議ICALP及びESAを中心に近似アルゴリズムの設計,近似精度の解明,オンライン情報モデルにおける競合アルゴリズムの設計,競合精度の限界解明,数学的なツールに関する調査を行っていく.文献調査に加えて,情報処理学会アルゴリズム研究会,電子情報通信学会コンピュテーション研究会などの国内各種研究会に参加し,本研究課題の目標を達成するための有益な情報を得る.オフライン情報モデルについては,固定パラメータに対する計算困難性と計算容易性に関する検討を始めており,引き続き進めていく.オンライン最適化問題については,バッファを用いることで整列を行う問題の定式化を行い,競合比解析を行っていく.各段階で得られた結果については,国内研究会,学会総合大会,国際会議などで随時公表を行っていき,他の研究機関研究者からのフィードバックを得ることで,手法の再検討を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度使用予定額の34万円程度を次年度に繰り越すことになった.これは,無向グラフの有向化最適化問題と直径を制約とした最適部分グラフ抽出問題に対する研究成果は得られていたが,その国際会議での公表が遅れたためである.前者についてはヨーロッパで開催される国際会議に投稿中であり,後者についてはAAAC年次総会での研究発表が採択されており,繰り越した研究費は,これらの旅費として使用予定である. 平成25年度は,繰り越し分と含めて164万円程度の研究費の使用を予定している.その内訳は,設備備品費として20万円,消耗品費として10万円,国内旅費として35万円,外国旅費として80万円,謝金等として12万円,その他として7万円である.設備備品費によりノートPC,アルゴリズム論や計算量理論に関する図書を購入する.メモリーやソフトウェアなどのPC関連の消耗品の購入も計画している.国内旅費により北海道,関西,四国,熊本で開催される計算に関する研究会,学会への参加を予定している.現時点で宮城県で開催されるAAAC年次総会への参加が決まっており,また,他の国際会議での研究成果の公表を計画しているため外国旅費が必要となる.大学院生による研究補助,専門知識の提供のために125時間分の謝金,研究成果を国際ジャーナル誌に投稿するための論文投稿費用も必要となる.
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