研究課題/領域番号 |
23500026
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
玉木 久夫 明治大学, 理工学部, 教授 (20111354)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | グラフ分割 / 木分割 / 有向グラフ / 固定パラメータアルゴリズム |
研究概要 |
頂点数がn、辺数がmである有向グラフの有向パス幅がk以下であるかどうかを判定するO(mn**{k + 1})時間のアルゴリズムを論文として仕上げ、国際会議WG2011(37th International Workshop on Graph-Theoretic Concepts in Computer Science)で発表した。このアルゴリズムは、判定結果がYESである場合に、そのパス幅を持つパス分割を構成する。無向グラフのパス幅に対しては、kが定数である場合にnに関して多項式時間(実際は線形時間)のアルゴリズムが知られていたが、有効グラフの場合には、そのようなアルゴリズムの存在は長年の未解決問題であった。パス分割の応用として、2部グラフの2層描画最適化問題に対するアルゴリズムを開発した。より具体的には、ひとつの層の頂点の順が固定されて、もうひとつの層の頂点の順序を選ぶことにより辺の交差数を最小化する問題、One-Sided Crossing Minimization (OSCM)の固定パラメータ劣指数時間アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは、n頂点のグラフが交差数k以下の描画を持つかどうかを、O(3**{\sqrt{2k}} + n)時間で判定し、答がYESの場合には、そのような描画を構築する。この計算時間の上限は、kに対する依存度とnに対する依存度共に既存のアルゴリズムを大きく改良している。さらに、指数時間仮説が真であれば、この実行時間の指数部は漸近的に最適である。2層描画はグラフ描画の基礎的な問題であり、このアルゴリズムの実用的な意義も大きい。また、招聘研究者のTamon博士とともに、グラフ分割の量子計算への応用を検討した。さらに、Tracesheetと名付けたプログラム実行過程の表現生成において有向グラフを用いる技法を開発した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の概要で上げた各項目について評価を行う。(1)一般の有向グラフのパス幅(最適なパス分割の幅)や木幅(最適な木分割の幅)を決定する問題に対して、幅が有界の場合の多項式時間アルゴリズムを開発する:パス分割に関しては、成果実績の概要で述べたように、目的を達している。実際には、この結果自体は申請時にほぼ完成したいたものであるが、実際に論文として精密な証明を仕上げたことは成果である。また、国際会議で発表することにより大きな反響を得、劣モジュラ関数の最適化のようなより一般の問題に対しても応用の可能性のある重要な結果であるという認識を得ることができた。(2)幅が非有界である場合に多項式時間でパス幅や木幅が決定できるような有向グラフクラスをできるだけ多く求める:この方向の結果はまだあまりないが、2層描画の最適交差数がk以下の2部グラフの幅k以下のパス分割を求める固定パラメータアルゴリズムの開発に成功している。(3)有向グラフのパス分割や木分割の応用を、理論的な計算時間の保証にこだわらず、発見的なアルゴリズムの範囲まで広げて幅広く開発する:この方向については順序回路の最適化など、実用的な問題について検討を行っている。以上より、研究開始1年目としては、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
有向パス分割のアルゴリズムについては、さらに改良を目指す。特に、固定パラメータアルゴリズムの開発は大きな目標である。無向パス分割のアルゴリズムから学ぶべき点が多々あるため、当面は無向パス分割のアルゴリズムについて検討を行う。特に、幅を限定しない場合に、知られているなかで最速のO(1.9657**n)時間のアルゴリズムには改良の余地がありそうなので、当面はその改良を行い、次にその考え方が有向パス分割に適用可能かどうかを調べる。応用としては、2部グラフの2層描画の最適化についてさらに研究を進める。特に、二つの層の両方において頂点の順が可変であるTwo-Sided Crossing Minimization (TSCM)の固定パラメータアルゴリズムの開発を目指す。その他に、論理回路の設計やプログラミング教育の補助ツールなどへの有向グラフ分割の応用の開発を行う。文献調査の結果、有向グラフの分割幅が理論的には有効ではないことが判明している問題がいくつもあることがわかって来ているので、応用においては理論的な結果にとらわれずに、発見的な方法によりいっそう力を入れることが必要になる。また、初年度にも既にその方向であるが、有向グラフに限定せずに、無向グラフの分割にまで範囲を広げて研究を進める中から突破口を探る必要がある。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平面グラフの分枝分割に関する重要な論文が論文誌に採択され、その掲載料を3月に支出したが、未決済のため、次年度繰り越し分から支出する。また、初年度の成果発表の国際会議への採録が予定通りに行かなかったものがふたつあり、それらの発表のための旅費、参加費も次年度繰り越し分から支出する。そのひとつは既に4月の国際会議(旅費の支払いは初年度内の3月)で使用済みであるが、未決済である。もうひとつは、現在9月に行われる国際会議に投稿中であり、採択されればその支出に繰り越し分の残額を充てる。現在、新しい結果が出つつあるので、それらの結果の発表のために次年度申請分の研究費を充てる。前年度に引き続き、海外研究協力者の招聘を行うべく先方と調整中である。
|