「クリプキフレームはグラフである。」この観察の上に立ち、グラフ理論との関連から様相論理のクリプキ意味論を見直し、もっと幾何的な観点を前面に押し出して意味論を再点検してみようという動機でこの研究を始めた。3年間にわたる研究の結果、当初の予想とは異なり、いくつかの障害があることがわかった。 1. 通常のグラフ理論は有限グラフのクラスを扱うが、様相論理の意味論を構築する上でのクリプキフレームは無限フレームも普通に考察の対象となる。グラフマイナー定理も有限グラフのクラスに関するものであり、非可算個のノードを持つグラフのクラスでは成り立たない。したがってこのグラフマイナー定理をそのままの形で様相論理の研究に使うには無理がある。 2. 上記グラフマイナー定理における「マイナーの関係」をクリプキフレームに適用すると関係がある2つのクリプキフレームが決める論理は一般に無関係となり、様相論理の研究に用いるには適当でない。そうではなくて2つのフレームの間にp-morphismがあるという関係がWQO-thoeryに当てはまるかどうかを考える方が研究の方向として有望である。 無向グラフとしてのクリプキフレーム(対称的かつ非反射的クリプキフレーム)のクラスで特徴づけられる様相論理については、当初考えられていたHybrid Logicのほかに様相演算子を2つ導入する論理を発見した。それらと通常の様相論理KTBとの関係、定理の変換等については論文を準備中である。 グラフマイナー定理のようにいわゆる「禁止マイナー」を有限個挙げることである性質を特徴づけているようなuniversal algebraの定理は数多く存在する。今後はWQO-theoryを参考にそれらを俯瞰するような統一的な視点を追求し、もって様相論理のなす束の構造の研究に役立てていきたい。
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