研究課題/領域番号 |
23500087
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高木 由美 神戸大学, システム情報学研究科, 助手 (70314507)
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研究分担者 |
太田 能 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (10272254)
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キーワード | 車車間通信 / ITS / フラッディング / シャドウイング |
研究概要 |
近年、車車間通信の応用として市街地(多くの高層建築物や多数の車両を想定)での事故や災害などの緊急情報配信が検討されている。そこで本研究では、情報配信方式の一つであるフラッディング方式(情報を受信した車両は、必ず1度だけ受信情報を転送する)に着目した。 フラッディング方式の性能評価は、小規模や見通し内通信、かつ車両移動のない静的モビリティであったりと、現実的でない仮定のもとで行われてることが多い。そのため、シナリオにおけるモビリティの有無、建物によるシャドウィング(遮蔽物による電波エネルギー到達量のミクロな変動にて発生する現象)の有無によって、代表的なフラッディング方式の性能を、商用シミュレータScenargie にてシミュレーション評価した。その結果、モビリティの有無、建物によるシャドウィングの有無が、配信率特性や遅延特性に影響を与えることを確認し、これらの要因を考慮すべきであることを明らかにした。 また、フラッディングに関する従来方式は、市街地では、車両の進行方向に対し、建物などの遮蔽により交差点を曲がった道路(以降、交差道路と呼ぶ)側の車両に情報伝搬しにくいという問題があった。これは、地図情報を活用することである程度の改善が見込めるが、全ての車両が地図情報を持つことが前提となるため、本研究では、地図情報なしに交差道路への情報配信を効率よく行う方式の実現を目指した。さらに、従来方式において、情報転送までの遅延時間をある時間範囲で一様ランダムに選択していることが、交差道路上への配信が効率的に行えていない一要因となっているため、この点にも着目している。本方式と従来方式を Scenargie にてシミュレーション評価した結果、本方式の優位性を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題として、当初、以下の3点を考えていた。 1.IEEE1609 WAVEマルチチャネル環境下での優先度制御における優先度のマッピング方法について検討 2.路側機の設置密度や設置場所が通信性能に与える影響を検討 3.IEEE1609 WAVEを想定したマルチチャネルでの車車・路車間通信切り替えならびに供用方法について検討 しかし、本研究を進めるにあたり、アプリケーションが利用するチャネル決定方法に関する標準化がないために、我国ではシングルチャネルでの運用が予定されていることがわかった。そこで本年度は、無線LAN規格 IEEE802.11p および IEEE1609 WAVE を利用したシングルチャネルでの研究を行った。 これまでの車車間通信の研究において、市街地における情報配信方式で、地図情報および隣接車両情報を使わず、実測値による受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)と情報の送受信間距離からの計算値による RSSI の差異にて、交差道路の判断を行っているものはない。そこで、本研究では、交差道路に位置する車両が優先的に転送を行える方式を提案し、シミュレーション実験にて提案方式の優位性を確認できた。さらに、市街地を想定した際、車両の移動や建物によるシャドウィング(遮蔽物による電波エネルギー到達量のミクロな変動にて発生する現象)の考慮、さらに、車両数1100台という大規模なシミュレーション実験はこれまでに行われていないため、今年度の研究は、当初の課題とは異なった内容であるが、車車間通信における研究で有意義であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、車両数が多いときでも、今年度提案した提案方式での受信率が 100% に達しなかったため、配信率が 100% となる情報配信方式を検討する予定である。建物に隠れて情報が行き渡らなかった車両には、即時性はないが、車両の移動性を利用することで、情報を持っている車両とすれ違った際に情報をもらうという考え方の DTN(Delay Tolerant Networking)を利用した配信方式の提案を考えている。 さらに、時々刻々と変化する負荷を自律的に推測することで、フラッディング方式における転送判断を決定する、負荷適応型の提案もおこないたい。 また、今年度は、移動モデルに交差点で 1 秒停止するような設定を組み込んだことにより、車群を再現した。しかし、信号や渋滞なども考慮した移動モデルではないために、今後は、シミュレータに搭載されているマルチエージョントの設定方法を習得し、これをシミュレーションに組み込みたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
提案方式によるシミュレーション実験にあたり、プログラム開発にかなりの時間を要することが懸念される。そのために、使用予定である商用ネットワークシミュレータの開発元にプログラムの開発を依頼するための費用を計画している。また、電子情報通信学会の研究会および国際学会などでの発表を予定しており、そのための旅費や参加費、および論文別刷りを計画している。
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