研究課題/領域番号 |
23500091
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
川原 憲治 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (40273859)
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キーワード | Green ICT / TE(Traffic Engineering) / 最小経路木 / 媒介中心性 / 省電力経路制御 / 省電力TCP |
研究概要 |
ネットワークにおけるルータやスイッチ等の機器単体の省電力化はリンクインターフェースの低転送帯域設定や通電OFFがあり、ネットワークワイドで省電力化を行う場合は送受信端末間に複数の転送経路が存在することからトラヒック量の多寡に応じた経路集約・分 散が効果的である。そのため本研究では、省電力化を意識したトラヒックエンジニアリング(TE)を実施するにあたり、1)前者を目的とした時間的なTE、2)後者を実現する空間的なTE、ならびに、3)両者を有効に連携する時間・空間的なTEについて具体的な手法 の提案とその効果の理論/シミュレーション/実験による検証を行った。今年度の成果は以下の通りである。 1)時間的な省電力TE:トラヒック転送プロトコルであるTCPでは、信頼性を提供するために、連続して転送するトラヒック量をネットワークの状況に応じて制御するが、その際の転送タイミングを経由ルータの負荷に応じて遅延させることにより、ネットワーク機器の通電OFF期間を意図的に増加させる方式を提案し、遅延アルゴリズムの検討、ならびに、大容量ファイル転送時の省電力効果について評価した。 2)空間的な省電力TE:省電力経路制御においては、通電OFFにするルータ/リンクの選択が非常に重要となるが、前年度提案した「複数ルータの最小経路木」を利用する方式において、a)起点ルータの決定方針、b)起点ルータからの最小経路木構成方針、ならびに、c)残余リンクによる各ルータからの経路選択方針について明らかにした。 3)時間・空間的な省電力TE:1経路における通電OFF/ONに要する時間とトラヒック転送性能との関係を通信トラヒック理論を適用して解析的に導出して評価し、他経路と協調してネットワーク省電力化を図る場合への理論拡張を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ネットワークアーキテクチャにおける各階層において、省電力化を意識した機能の拡張を行うことを目的としている。具体的には、Layer1(物理層)において機器の利用状況に応じた消費電力量制御、Layer2(データリンク層)における転送トラヒック量 に応じたリンク転送速度制御を基本として、Layer3(ネットワーク層)における省電力経路制御、ならびに、Layer4(トランスポート層)における省電力TCPの検討を行っている。 昨年度は、前者に関して省電力経路集約・分散のための通電OFF対象機器の選択手法を提案したが、今年度はその具体的なアルゴリズムについて検討した。 後者については、省電力TCPの実現可能性を挙げていたが、今年度は経路の利用状態に基づく制御パラメータの決定方針を明確にし、その一部を通信トラヒック理論を適用した解析により評価手法を一般化した。 以上の成果に関して、それぞれを国内学会の研究会レベルではあるが公表しているため、おおむね順調にしているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は提案手法のアルゴリズムの詳細検討と、一部定量評価のための理論解析が主であったため、今年度はそれを踏まえて、実現可能な手法への改良と省電力ネットワークシステム全体をとらえることのできる理論体系の確立を目指す。 空間的省電力TEにおいては、通電OFF機器の選択方法を自律分散的に行うような変更が必要であり、また、トラヒック増加時の復旧方法についても検討し、実ネットワークにおける制御可能性を検討する。 また、時間的省電力TEにおけるTCPのトラヒック転送移行についても同様な検討が必要で、今年度購入したネットワークエミュレータを利用した評価を実施中である。 加えて、マルチパスTCP(MPTCP)の枠組を適用した時間的空間的省電力TEについて評価する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度予算に計上していた物品費のうち、最終評価のためのテストベッドネットワーク構築用のPC群の購入について、理論解析やシミュレーション評価を主としたため、今年度の使用を見合わせた。 そこで、今年度の剰余研究費と次年度の研究費を合算することにより、最終年度は主として、大規模テストベッドネットワーク環境の構築のためのPC群の購入、ならびに、実データ取得、解析のための大規模ファイルサーバの購入に充当する。 加えて成果発表のための国際会議1件、国内研究会など4件程度を予定し、その旅費や参加費としても利用する。
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