研究課題/領域番号 |
23500093
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
白石 陽 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (90396797)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | モバイルセンシング / データベースシステム / センサネットワーク / ナビゲーション / 携帯端末 |
研究概要 |
本研究は,人や車などの移動体によるセンシング(モバイルセンシング)に着目し,移動体から得られる位置情報やセンシング情報を統合的に管理するためのデータベースプラットフォームの構築を目的とする.移動体から得られる情報を,どのようなデータ構造で管理するのが効率的なのか検討するために,複数の応用例を設定し,それぞれに適したデータ構造およびデータベースシステムの検討を行った.まず,道路交通の安全・効率化を目的として,スマートフォンを用いた車線推定手法を提案した.提案手法は,低導入コストの実用的なアプローチであり,スマートフォン内蔵のGPSや方位センサを利用して車両の走行ログデータを収集し,そのログデータを記録し,分析することで車線推定を行う.また,都市センシングデータに基づく経路推薦のためのデータベースシステムを提案し,実装を行った.提案システムは,周辺のセンサデータを利用して道路に沿った線的な補間を行うことで,道路の重み付けを行い,その重みに基づいて経路探索を行う.これらの成果より,高度交通システムや歩行者ナビゲーションなど道路に沿って移動する人や車に対して,モバイルセンシングデータを用いてサービスを提供する場合には,道路ネットワークに基づくデータ構造を用いて観測データを管理し,加工処理を行うことが望ましいことが示された.さらに,モバイルセンシングのデータは,位置と時刻を持つ時空間データであり,空間統計処理を施すことによって,ある時刻の人口分布,一日の人口の変化,滞留度などを空間的な分布として提示できる.そこで,モバイルセンシングデータを対象とした空間統計処理のための geohash に基づくデータベースシステムを提案した.提案システムによって,モバイルセンシングデータを面的な分布として提示することができ,動的に変化する都市の状況を俯瞰的に把握することができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,モバイルセンシングデータを管理するためのデータベースプラットフォームの構築を目指しており,具体的な応用例を想定した上で,データ構造やデータベースシステムの検討を進めることで実用的なシステムを構築できると考えた.そのため,本年度は,(a) 車線推定,(b) 歩行者ナビゲーション,(c) 空間統計の3つの応用例を想定し,それぞれに対して,適切なデータ構造,データ加工手法,データベースシステムの検討を行った.(a), (b) の研究成果としては,道路ネットワークデータを細分化した階層的なデータ構造に基づいて,センシングデータの管理や加工処理を行うことが適切であることが示されており,これは今後研究を進めていくにあたって有用な知見になると考える.(a) については,実際に携帯端末上に車両走行ログデータ記録システムを実装しており,このシステムを拡張することで,容易に小型モバイルセンシングデータベースを構築できると考える.(b)に関しては,線的補間機能を実現しており,(c)が対象とする面的な補間も合わせて検討を進めることで,モバイルセンシングデータに適した時空間補間手法を提案できると考える. (c) の空間統計処理のためのgeohashに基づくデータベースシステムは,モバイルセンサ(携帯端末)からのセンシング情報を集約し,空間的な統計情報として提供することができるため,集約データベースのプロトタイプは実現できていると言える.様々な空間統計処理に対応するためには,時間情報も考慮する必要があり,現在,時空間データを効率的に管理するためのデータ構造(時空間インデックス)に関する検討を進めている. 以上より,わずかに未達成の部分もあるが,具体的な応用システムに関する要素技術の開発も進んでおり,全体としては,おおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,モバイルセンシングのためのデータ収集・蓄積・活用システムの構築を進めることであり,活用システムの具体例を想定し研究を進めることで,より実用性の高いシステムが実現できると考える.今後も,平成23年度までに想定した応用例(車線推定,歩行者ナビゲーション,空間統計処理)に関する研究を継続して進めることで,それぞれに適したデータ管理方法やデータ処理方法に関して,より深い検討を進めていく.そうした検討を進めることで,モバイルセンシングデータを効率的に関するための時空間インデックス,モバイルセンシングデータのための時空間補間手法,モバイルセンシングデータの集約のためのデータベースシステムを提案していく.基礎実験として,複数の携帯端末を用いて実際にモバイルセンシングデータを収集し,その収集データに基づいて提案システムの有用性について評価する.さらに,シミュレーション実験を行うことで,より大規模な環境での提案手法の有用性について検討を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の推進方策に記した通り,次年度は,平成23年度までに提案した手法およびその改良手法の評価を行うために,実データによる基礎的検討とシミュレーション実験による評価実験を行う予定である.したがって,実データ収集のための複数台の携帯端末を購入する必要があり,実験協力に伴う謝金も必要である.都市規模の大量データのシミュレーションを行うためには,高性能PCの購入も必要である.国内の研究会での発表を行うことで,今後の研究に役立つ有益なコメントが得られると考えられるため,積極的に研究発表を行う.また,国内外の学会に参加し,関連分野の専門家と議論し,最新の研究動向を把握することも重要である.こうした学会発表・学会参加のための旅費としても計上している.
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