研究課題/領域番号 |
23500093
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
白石 陽 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (90396797)
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キーワード | モバイルセンシング / データベースシステム / センサネットワーク / ナビゲーション / 携帯端末 |
研究概要 |
まず,前年度に,都市センシングデータに基づく経路推薦のためのデータベースシステムを提案しているが,今年度は,その内容をジャーナルとして投稿した結果,論文誌に採録された.また,道路交通の安全・効率化を目的として,スマートフォンを用いた車線推定手法を前年度に提案したが,今年度は提案手法の精度向上を図った. 次に,今年度は,新たな応用例として,快適な運転を支援するためのスマートフォンを用いた路面状況推定システムの提案を行った.提案手法では,ある区間を走行した時の上下方向加速度の分散値を計算し,閾値により道路状態(通常道路,凹凸道路,砂利道)を判別する.この応用例においても,前年度の検討結果と同じように,道路ネットワークに基づくデータ構造を用いて観測データを管理し,加工処理を行うことが望ましいことが示された.一方で,路面状況の推定という点では,道路状態という線的なデータとして提供するか,段差という点的なデータとして提供するか,という検討も必要となることがわかった.すなわち,路面状況推定という新たな応用を想定することで,モバイルセンシングデータの収集・蓄積・活用に関して新たな観点で検討を進めることができた. さらに本年度は,対外的な研究発表を数多く行い,関連分野との研究者と議論を重ねることで,本研究課題を円滑に進めることができたと考える.本研究課題と深く関連する学会として,電子情報通信学会ヒューマンプローブ研究会が挙げられるが,研究代表者は,その公開シンポジウムの実行委員長を務めた.このシンポジウムでは,ヒューマンプローブ分野の国内外の著名な研究者による招待講演が行われ,ポスターセッションでは活発な議論が行われ,本研究課題に関するポスター発表も行われた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,モバイルセンシングのデータ収集・蓄積・活用システムの構築を目的としている.具体的な応用例を想定し,複数の応用例を設定し,それぞれの応用例に適した収集方法や蓄積方法を検討することで,より実用的なシステムを構築できると考えた.そのため,前年度に設定した(a) 車線推定,(b) 経路推薦,(c) 空間統計の3つの応用例に加えて,新たな応用例として (d) 路面状況推定を設定した. まず(a) の車線推定手法に関しては,精度向上のための手法改良を進め,さらに今年度は,(d) の路面状況推定のためのシステムの提案を行った.どちらのシステムもスマートフォン上のアプリケーションとして実装している.したがって,多様なセンサデータを効率的に収集するための要素技術の開発は十分に進んでいると言える. また,前年度,(a)の車線推定,(b)の経路推薦に関する研究成果として,道路ネットワークを細分化した階層的なデータ構造に基づいて,センシングデータの管理や加工処理を行うことが適切であることを示したが,新たな応用例である (d) の路面状況推定においても同様のことが示された.また,(d) の応用においては,ある区間を走行した時の時系列データを集約し,線的情報として提供しており,位置情報だけでなく時間軸も考慮したデータ処理の枠組みを提供していると言える.一方,俯瞰的な情報を提供するためには,面的なデータ構造が適していると考えられ,前年度に提案した( c )の空間統計処理のためのデータベースシステムに関する検討も進めた. 以上のように,複数の具体的な応用例を想定し,それぞれに関する要素技術の開発を着実に進めて来ており,研究課題全体としても,おおむね順調に進んでいると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,モバイルセンシングのためのデータ収集・蓄積・活用システムを構築することであり,具体的な活用例を想定し研究を進めることで,より実用性の高いシステムが実現できると考える.次年度も,今年度想定した応用例(車線推定,路面状況推定,歩行者ナビゲーション,空間統計処理)に関する研究を継続して進めることで,それぞれに適したデータ構造,データ管理方式,データ処理方法に関して,より深い検討を行う予定である. 今年度までに,車線推定や路面状況推定のためのスマートフォンアプリケーションを実装して来ているため,次年度は,これらのアプリケーションを実際に利用してデータ収集を進め,その収集データに基づいて提案システムの有用性について評価する.さらに,シミュレーション実験を行うことで,より大規模な環境での提案手法の有用性について検討を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策に示した通り,次年度は,前年度までの成果である提案手法や提案システムの評価を行うために,実データに基づく評価とシミュレーション実験による評価を行う予定である.したがって,実験協力に伴う謝金が必要であり,都市規模の大量データのシミュレーションを行うためには,高性能PCの購入も必要である.また,次年度は,本研究課題の最終年度であることから,国内外の学会での研究発表のための旅費や論文誌掲載料の支出も考えている. 今年度は,研究推進のため,車線推定の提案手法の改良,論文誌への投稿,新たな応用例としての路面状況推定システムの提案を行った.その結果,当初の予算計画とは異なり,研究成果発表にかかる支出が多くなり,学会参加旅費や論文誌掲載料の支出が必要となった.一方で,データ収集に関する実験は,当初今年度の実施を予定していたが,次年度の実施を計画しており,その分の支出は発生しなかった.また当初シミュレーションのための高性能PCの購入も予定していたが,次年度予算での購入を検討している.以上のような状況で,次年度使用額が発生することになったが,次年度請求額と合わせて有効に活用したい.
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