研究概要 |
平成23年度は, 写実的なレンダリング法の開発と, 複雑なダイナミクスの計算法について, 重点的に研究を行った. 煙・雲・炎など, 微細な粒子から構成される媒質を写実的に表現するには, これら粒子による光の散乱や減衰等の効果を考慮することが重要である. 本研究では, 我々の開発したモンテカルロ法に基づく散乱計算法を一般化し, よりフレキシブルに計算できる方法を開発した.一方, 複雑なダイナミクスを計算するため, 流体の大まかな動きと, より微細な構造を考慮したマルチスケールの計算法について研究を行った. 本年度は, 炎のシミュレーション, 磁性流体のスパイク現象のモデリング法, 非均質な物体の変形シミュレーションを対象とした. 炎のシミュレーションでは, すすの粒子分布が重要であり, 温度によって黒体放射が変化し, 赤い炎や黒煙に見える. また, 粒子の大きさや個数密度の違いにより, 輝度や減衰率が変化する. 本研究では, これら光学特性を考慮する一方, ダイナミクスを計算するため, 圧縮性流体として空気や燃料・反応生成物などを扱うとともに, 微細なすすの粒子分布の変化を考慮するモデルを開発した. 磁性流体は, 溶媒中にコロイド状に微細な磁性体が溶けたものである. 特徴的現象として, 強い磁石を近づけた際に, スパイクのような形状が液面付近に現れる. この現象をモデル化するため, 流体の大まかな動きをSPH法によりシミュレーションし, 特定の条件下で解析的に得られるスパイクの形状を, SPH法で得られた液面上にマッピングする近似的な表現法を開発した. 非均質な物体の変形シミュレーションでは, 多重解像度のアプローチにより, 同じ計算時間で, より詳細な変形結果が得られる方法の開発に取り組んだ. 新しい方法では, 場所ごとに材質に応じて硬さの異なる物体を扱うことができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は個々の現象に即して, 材質の構造および光学特性を考慮して, 物理ベースのシミュレーションと可視化を行う手法を開発した. 炎・磁性流体・非均質物体の変形に関して, ダイナミクスを計算するプロトタイプを開発し, 簡単な実験によりその有効性が確認された. また, 微細な粒子からなる媒質の写実的なレンダリングのための方法についても開発した. こうした観点から, 当初の目的に沿って, 研究が進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として, 下記が考えられる. 一つ目は, 既に開発した, 炎・磁性流体・非均質な物体の変形モデルをもとに, より詳細で写実的な表現が可能なモデルに改良していくことである. 二つ目は, 炎・磁性流体・物体変形, 以外の現象やダイナミクスのモデル化である. 既に開発したモデルの応用範囲を確認することも考えられる. 三つ目は, 媒質を構成する微細な構造が粒子以外の場合の光学特性のモデル化と, その光学特性を考慮した可視化手法の開発である. 四つ目は, 開発した手法に基づいたアートへの応用である. 今後はこれらの方向性に基づいて, 研究を推進していきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は研究上必要な経費をほぼ予定通りに使用した. その残額(2,671円)は小額であるが, 無駄な出費を抑えるため, 次年度使用額とすることとした. 平成24年度の研究費はおよそ130万円であり, 次の項目に使用する予定である. まず, 最新の計算環境を構築するために, 最先端のCPUやGPUを搭載したPCを購入する予定であり, 40万円ほど使用する予定である. 次に, 世界的な研究者と意見交換するために, CG分野のトップカンファレンスに参加したり, 打ち合わせを行ったりするための出張費に使用する予定で, 80万円ほどを考えている. 他には, 実験や資料作成のための人件費や, 論文投稿料などとして, 10万円ほどを考えている.
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