研究課題
今年度は,ワイルドカードを含むXPath問合せクラスを対象として,与えられたDTDのもとでのXPath式確定解判定問題の計算複雑さを網羅的に調査した.ワイルドカードはパス和演算の制限された形であり,実用上頻繁に用いられる演算子である.本研究では,まず,パス和演算を含むXPath問合せクラスに対しては確定解判定問題がcoNP困難であることを示した.さらに,ワイルドカード,子軸,子孫軸,述語のうちのどれか3つの組み合わせであれば確定解判定問題が多項式時間可解であること,および4つすべてを含む問合せクラスに対してはcoNP困難であることを示した.これにより,実用上意味のある問題設定で,確定解判定問題が効率よく解けるための境界を一部明らかにできたということができる.さらに今年度は,disjunction-capsuled DTDと呼ばれる,DTDの実用的な部分クラスおよびその派生クラスを対象として,XPath充足可能性問題やXMLスキーママッピングの整合性問題の計算複雑さについて検討し,これらの問題が効率よく解けるための新たな条件をいくつか得た.XPath充足可能性問題はXPath確定解判定問題と双対の関係にある.またスキーママッピングはデータ交換のための枠組みである.したがって,本研究で得た新たな条件は,確定解判定ならびにそれを用いたXMLデータ交換が効率的に行えるような,実用上意味のある問題設定を与える上で有用である.
2: おおむね順調に進展している
必ずしも当初計画通りの手順で研究が進んでいるわけではないが,ワイルドカードを含むXPath問合せクラスという実用的に意味のあるクラスに関して知見を得たという点により,おおむね順調に進展していると判断するものである.
XPath確定解判定問題については,兄弟軸や上方向の軸を含んだより広いクラスについて検討を始めている.これと並行して,XPath充足可能性問題やXMLスキーママッピングの整合性問題など,関連の深い問題についても検討を続ける.さらに,determinacyやsubsumptionといった,新しいタイプの問合せ静的解析問題についての調査・研究にも手を広げ,本研究課題との関わりについて考察する.
23年度は比較的多くの研究成果を得ることができた一方で,発表論文の形にまとめるための時間を十分に確保できず,結果として研究費の一部を次年度に繰り越すこととなった.その反省をふまえ,24年度は成果発表に少し比重を移す予定である.なお,現在,国際会議に投稿中が1編,投稿準備中が1編あるという状況である.
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IEICE Transactions on Information and Systems
巻: Vol. E95-D, No. 5 ページ: 1365- 1374
10.1587/transinf.E95.D.1365