研究課題
今年度は,子軸,子孫軸,兄弟軸,述語,ワイルドカードから成るXPath問合せクラスを対象として,与えられたDTDのもとでのXPath式確定解判定問題の計算複雑さの解明に取り組んだ.その結果,子軸,兄弟軸,述語に加えて子孫軸かワイルドカードを含むクラスに対しては多項式時間可解であること,子軸,子孫軸,兄弟軸,ワイルドカードを含むクラスに対してはcoNP困難であること,などの結果を得た.さらに,子軸,子孫軸,述語,ワイルドカードから成るXPath問合せクラスを対象として,与えられたDTDのもとで与えられたXPath式が「極大な」確定解かどうかを判定する問題にも取り組んだ.確定解が極大であるとは,それが確定解であることが他の確定解から導出できないことを指し,直観的には「その確定解がもつ情報量が極大」であることを意味する.今年度はこの問題が多項式時間可解となるXPathクラスの条件の見通しを得た.一方,今年度も昨年度に引き続き,disjunction-capsuled DTDと呼ばれる,DTDの実用的な部分クラスおよびその派生クラスを対象として,XPath充足可能性問題やXMLスキーママッピングの整合性問題の計算複雑さについて検討し,これらの問題が効率よく解けるための新たな条件をいくつか得た.特に,今年度提案したRW-DTDというクラスは,現実世界のDTDのほとんどすべてをカバーしている十分に広いクラスであり,かつ充足可能性問題がより効率よく解けるクラスでもあるため,極めて有用なクラスである.さらに本研究では,XMLデータベース問合せ解析技術の別の応用として,推論攻撃に対する安全性検証法についてもいくつかの成果を得た.
2: おおむね順調に進展している
申請時の予想と比べて非常に多くの理論的成果が得られている一方,実証実験に関する取組みがやや遅れている.この意味でややバランスが悪い状態ではあるものの,バランスの悪さは最終年度でリカバー可能な範囲であると考えている.以上のことより,全体としてはおおむね順調に進展していると判断するものである.
極大な確定解かどうかを判定する問題について,今年度に得た見通しを整理し,対外発表する予定である.それと同時に,XMLスキーママッピングの整合性判定やXPath式の充足可能性判定が効率よく解けるDTDのクラスについても整理し,確定解判定問題への応用を検討する.さらに実証実験を行うことで,本研究の理論的成果が問合せ最適化にどの程度寄与するか調査する.
約85万円を翌年度に繰り越したが,うち約45万円は翌年度早々に予定している国際会議発表に充てる予定である.また,今年度は実証実験を行うための人的資源の確保にめどが立たなかったため,陳腐化を避けるために計算機購入を見送った.翌年度は,実証実験用の計算機を早急に購入して体制を整えるとともに,今年度見通しが得られた成果を至急まとめて,翌年度中に対外発表できることを目指す.
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IEICE Transactions on Information and Systems
巻: Vol. E95-D, No. 5 ページ: 1365- 1374
10.1587/transinf.E95.D.1365