本年度は理論面および実用面それぞれについて以下のような成果を得た. 理論面からは,まず,XMLデータ交換の一形式化であるスキーママッピングを対象として,それが「絶対整合性」と呼ばれる望ましい性質をもつかを,実用的なスキーマクラスについて効率よく判定できることを示した.具体的には,選ばれた27個の現実世界のスキーマのうち,効率よく絶対整合性判定可能な既知のスキーマクラスでは5個しかカバーできていなかったところを,16個まで拡大することができた.また,絶対整合性判定ならびに問合せ最適化に有用な「XPath充足可能性」と呼ばれる性質を判定する問題について,既知のXPathクラスより大きなクラスに対して多項式時間で判定できることを示した.その他,木変換器間の包摂判定や問合せ間の型振舞い等価性判定といった,データ交換において有用となる新しい基礎技術の開発にも取り組んだ.一方で,昨年度見通しを得た「極大な確定解」の導出手法については,残念ながら対外発表を行うレベルに至らなかったため,引き続きブラッシュアップを続けていく予定である. 実用面からは,XPath充足可能性の多項式時間判定アルゴリズムを計算機上に実装し,充足可能性に要する実時間を評価した.その結果,XMLデータの標準的なベンチマーク対し,数十ミリ秒程度で判定が可能であることを確認した.これにより,研究期間内には達成できなかったが,極大な確定解の導出ならびにそれに基づいた最適化についても,十分に実用的な範囲内の時間で行えると期待できる.
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