研究課題/領域番号 |
23500138
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
林 亮子 金沢工業大学, 工学部, 講師 (30303332)
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キーワード | 材料設計 / 高性能計算 / 知識発見 / 統計処理 / シミュレーション / ナノテクノロジー |
研究概要 |
1.本課題に近い内容を扱うのはケモインフォマティクス分野である.そこでケモインフォマティクスの研究状況およびこれまでに得られている知見を調査した.その結果,単一分子の3次元構造の自動生成は材料設計パッケージに組み込まれていてすでに利用しており,結果データにおける3次元構造の認識についてはすでにいくつかの知見があってそれらを利用することが有益であることがわかった.具体的な利用方法については引き続き検討していく. 2.シミュレーションの結果得られるデータを適切に自動処理し,次にシミュレーション実行すべき条件の設定を自動的に行うことが本課題の中核となるが,そこで使用する技術要素はデータファイルにおける文字列処理である.ファイルの取り扱いと文字列処理を行うのに適したプログラミング言語はPerlであるため,Perlを用いた開発準備を行っている. 3.流体シミュレーションはもともと流体力学で発達したが,近年では材料設計においても複数のシミュレーション手法を同時に使用する連成計算の構成要素として注目されている.これは,分子レベルの運動を分子動力学法やモンテカルロ法などの微視的なシミュレーションで模擬し,同時に材料の弾性体としてのマクロな性質を有限要素法などの流体シミュレーション手法で模擬するものである.そのため流体シミュレーションを行うことでより公汎な材料を扱えることが期待できる.そこで今年度は流体シミュレーションの高速化を目指し,GPGPU上で流体シミュレーションプログラムの開発および性能評価を行った. 4.材料設計分野でよく用いられるシミュレーション手法の一つに分子動力学法があり,シミュレーションの高速実行技術が不可欠である.そこで近年高性能計算プラットフォームとして注目されているマルチコア計算機上での性能評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は連携研究者を置き,定期的に研究内容の打ち合わせを行いながら実施している.さらに,研究代表者の専門分野は情報科学であるため,本課題の主要な応用テーマである材料科学関連分野の広範囲の研究者と交流を行うことでより良い研究が行える.以下の状況から,現段階ではおおむね順調に進展していると考える. 1.材料科学関連分野についても調査を行った結果,本課題に関連の深い既存の研究領域としてケモインフォマティクスと呼ばれる分野があることがわかったので,ケモインフォマティクスの研究状況とこれまでに得られている知見の調査を行った.これはかなり労力のかかることであり,現段階では概況の調査程度に留まるが,本課題遂行上は避けて通れない作業である.平成24年度に本課題の類例研究の研究状況の調査を行い,本課題遂行に必要な知識的基盤の強化を行うことができた. 2.本課題は研究開発の実担当者が研究代表者1名のみであるため,研究開発は必要な部分のみにポイントを絞って行う必要がある.今年度の研究調査により,開発箇所がかなり限定されたので,次年度なるべく早期にプロトタイプシステムの開発を行い,研究発表していくことで,材料科学関連分野の研究者とのさらなる交流が可能となり,開発を進展させていく準備ができた.
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今後の研究の推進方策 |
1.今年度の研究進行状況に基づき,連携研究者と打ち合わせを行ったところ,シミュレーション結果データから次のシミュレーションの条件設定を行うことが大変困難であり,以前にシミュレーション結果を用いて次のシミュレーション条件を設定するシステム開発を試みたがそこで頓挫したことを伺った.そこで,シミュレーション結果データから結果を抽出してそれに何らかの処理を行ったのちに次のシミュレーションを実行する部分に注目して開発を行う. 2.既知の分子ワイヤ物質を用いて材料設計シミュレーションを行い,既知の知識を再現できるかどうかを検討し,開発したシステムの検定を行う.チオフェン分子C4H4Sは少数の原子でできた分子であるが,導電性ポリマーをつくることが知られており,その性質もこれまでによく調べられているので,チオフェン分子を用いる予定である.現実の物質を扱う際にはシステム開発上も量子化学の知識も必要となるため,システム開発を行いながら最低限の知識を身につける. 3.近年の高性能計算機環境は集積化と低価格化が進み,1CPU上に複数計算コアを持つメニーコアシステムが基盤(C)の通常の予算規模でも利用できるようになっている.高性能計算機環境として注目されているものには他にGPGPUもあるが,これはGPGPU特有の開発環境を使用して専用プログラムを開発する必要がある.一方今回着目しているメニーコアシステムは専用プログラムの開発が不要で,通常の計算機上で既存のパッケージプログラムをジョブとして大量に実行すると自動的にジョブがコアに割り当てられるしくみであるため,既存のパッケージプログラムをそのまま大量に実行可能であることから本課題に特に向いた計算機環境である.そこで,メニーコアシステム上で材料設計システムを開発して動作確認を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度10月頃にメニーコアコプロセッサIntel Phiが発表されたが,上記の「今後の研究の推進方策」の項目3.で述べたように,これは通常の計算サーバよりも本課題に非常に役立つと考えられた.その時点での予算額および納期では2012年度内の購入が困難であったため,2012年度当初予定では計算サーバを2012年度内に購入予定であったがこれを2013年度に延期し,2013年度予算とあわせて購入する予定である. 1.材料設計シミュレーション環境として,60コアを持つメニーコアコプロセッサIntel Phiを用いた計算サーバを購入してこの計算機上でシステム開発を行い,複数のジョブを実行した結果を実際に扱って次のシミュレーション条件設定を行うことを目標とする. 2.1.で購入する計算サーバに付随して材料設計パッケージプログラムや開発環境の購入を行う必要がある. 3.論文投稿や学会発表を積極的に行い,連携研究者に限らない材料科学などの関連分野の研究者からの意見を参考にしてシステム開発をすすめたい.
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