研究課題/領域番号 |
23500139
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
水野 慎士 愛知工業大学, 情報科学部, 准教授 (20314099)
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研究分担者 |
横井 茂樹 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (20115744)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | デジタルミュージアム / コンピュータグラフィックス / 対話的システム / NPR / バーチャルリアリティ / 幾何モデリング / メディアアート |
研究概要 |
本研究では,より進んだディジタルミュージアムの構築を目指して,対話的CG作成手法やNPR手法をミュージアムで活用するための技術を開発する.主に日本の伝統美術工芸技法を対象として,ミュージアム来館者が楽しんだりミュージアムでの調査研究で活用できる伝統工芸仮想体験システムの開発を行う.またミュージアム内やオンラインで情報発信や情報共有を行うシステムの開発を行う. 平成23年度は主にミュージアム来館者向けのシステムのための手法開発を行った.申請者が開発してきた仮想沈金システムを拡張して,濃淡画像から輪郭部分を抽出して,沈金のための三次元的な素彫りを仮想漆面に自動的に施す手法を開発した.この手法は沈金の生成手法を紹介するシステムに応用可能である.また,考古学者との共同研究で三次元CG空間で縄文生成を対話的に再現する手法を開発した.縄文生成に様々な縄の三次元形状を球ベースで構築して,これらの仮想縄を仮想粘土板上で転がしながら衝突判定を行うことで,リアルタイム縄文生成シミュレーションを実現した.様々な縄の生成とその縄による文様の確認をCGで素早く行うことが可能となり,縄文土器文様の研究や紹介に活用することが可能となる.ソーシャルメディアを活用したオンラインミュージアムの提案も行った.所蔵品に関する様々な知識の共有や複数のミュージアムの連携を行うことで,初心者にはわかりやすく,熟練者には幅広い知識の習得が可能となった.さらに多数のビデオ素材を同時に再生して,ユーザ操作に応じて一つのビデオ素材の映像と音声を強調して提示するシステム「GAYAIT」を開発した.これはメディアアートの一種だが,ビデオ素材を印象的に再生することができるため,科学館の映像素材を展示するためのシステムにも用いられることになった. なお,これらの研究成果のいくつかは国内外の会議で発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,既存のミュージアムに対してコンピュータ技術を活用したディジタルミュージアムの構築のための技術を開発することである.特に日本の歴史や文化に関する文化財を保有するミュージアムにおいて,CGやVR,マルチメディア技術を活用して,来訪者やミュージアムの研究員が使用できるシステムを開発する. そして,平成23年度は主に来館者向けシステムのための技術やシステムの開発を行うという計画に基づいて研究を進めた.その中で行った仮想沈金システムの拡張は,沈金になじみのない人でも沈金を仮想的に体験でき,その制作技法の理解を進めることが期待できる.また,縄文生成シミュレーションは様々な縄とその文様の生成を対話的に行うことができるため,専門家だけでなくミュージアム来館者へのシステムへも応用可能である.ソーシャルメディアを活用したオンラインミュージアムは,ミュージアム来館者やその所蔵品に興味がある人々が様々な知識を共有することが可能になり,オンラインミュージアムを通じた人々の交流を促進させることもできた.ビデオ映像提示システム「GAYAIT」は,そのユニークな映像音声提示手法が来館者の興味を惹くということで実際に科学館で使用される予定である.そして,これらの研究成果は国内外の学会やシンポジウムで発表を行った.また外部への発表は行っていないが,新たな伝統工芸技法としてガラス細工の一種である切子を仮想空間で体験する手法も開発中である. 以上のことにより,平成23年度はおおむね順調に研究が進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,平成23年度に開発したミュージアム来訪者向け伝統工芸技法仮想体験システムをさらに高精度化していことで,ミュージアム内部での調査研究にも活用できるシステムの開発を開始する. 仮想体験システムの高精度化としては,仮想沈金や仮想彫刻のために開発してきた変形,色塗り,転写などの各技法の物理モデルの高精度化,画像の高精細化などを行う.また,仮想切子の実現のために,対話的操作を保ちながら屈折や反射を伴うCGレンダリングを実現するための技法の開発を行う.縄文生成シミュレーションでは,より複雑な縄への対応や粘土の体積を考慮した文様生成を実現する.またこれらの仮想体験システムのために,Phantomなどの力覚デバイスへの対応,手先動作の画像解析に基づくユーザインタフェース開発などを行う.また3Dディスプレイに対応させることで,より直感的な操作環境を実現する.これらを実現するためには,GPUなどを用いた計算処理および描画の高速化,メモリの効率的な利用,動画像解析技法の開発などを行う. またオンラインミュージアムでの制作仮想体験を実現するため,制限された処理速度,メモリ,ユーザインタフェースに対応したシステムの開発を行う.ソーシャルメディアを活用するオンラインミュージアムについては,異なるミュージアム間の所蔵品などの情報共有や,各オンラインミュージアムのユーザ同士の交流に関するシステムを構築していく.映像提示システム「GAYAIT」については,Kinectや3D映像への対応に加えて,ミュージアムでの活用に適したコンテンツを探っていく. そして,これらの研究の進展で得られた成果は逐次国内外の会議等で発表を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,平成23年度に開発してきたミュージアム来訪者向け伝統工芸技法仮想体験システムをさらに高度化していことで,ミュージアム内部での調査研究にも活用できるシステムの開発を開始する.そのため,CG映像生成やマルチメディア処理を高速に行うことが必要となるため,高性能なCPU,大容量メモリ,3D対応高性能グラフィックボードを搭載するPCを購入する(約60万円).そしてユーザインタフェース構築のために,マルチタッチ対応タブレットまたは力覚提示システムを購入する予定である(約20万円).その他研究の遂行に必要な物品を購入する(約10万円). また研究成果の発表や関連研究の調査,各地のミュージアムに情報収集のため,SIGGRAPHなどCG関連の国内外の会議に出席したり,現地調査や交流を行う予定である(約50万円).
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