25年度は映像酔いを中心とした不快度に影響を与える映像要素について,特に上下方向の揺れに着目した調査を行った.具体的には,昨年度までの成果を基に,時間的かつ量的な分解能が低い主観評価を自律神経指標を用いて補間する手法を用い,不快度の連続的な変化と映像の揺れとの関係についてモデル化を試みることを目的とし以下の事項を実施した.1)揺れを含む立体映像視聴時の生体信号(脈波,心電,血圧,瞳孔)および主観評価の記録.2)自律神経機能解析を行い,生理指標によって不快度の連続的な変化を推定.3)実験映像の動きと不快度との相互関係についてのモデル解析. 生体信号および主観評価の記録については,従来循環系の指標のみを用いていたのに対して,本年度は新たに視覚系の指標も評価対象としたため,映像視聴時の照度および瞳孔系の変化も同時に記録した.視覚調節機能の評価では,照度を入力とし,瞳孔面積を出力としたモデル同定を行い,ゲインおよび遅れ時間を指標とした.生理指標によって補完された連続的な不快度の変化を映像の縦揺れを入力としたHammerstein型非線形モデルによって同定した. 結果として,自律神経機能解析においては,従来主に循環系指標のみで行われていた自律神経解析に視覚調節系の情報を導入することによって,従来よりも主観評価との相関を向上させることに成功した.得られた自律神経情報による不快度の変化を映像の揺れの成分の大きさを入力したモデルによって推定することを試みたところ,不快度の大まかな変化を推定できる可能性が示唆された. 今後は,モデルの前段にある非線形要素の係数や線形モデルの自己回帰項の値などの評価によって,不快度の変化に影響を与える揺れの大きさの閾値や回復の時定数などについての詳細な考察を行う必要がある.
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