研究課題/領域番号 |
23500166
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
櫻井 祐子 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 准教授 (10396137)
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研究分担者 |
横尾 真 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (20380678)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | マルチエージェントシステム / ゼロサプレス型二分決定グラフ / 協力ゲーム / 情報ネットワーク経済 |
研究概要 |
本研究では,本研究では,従来の協力ゲーム理論の概念を大規模なネットワーク環境においても実装可能なアルゴリズムに展開させるために,二分決定グラフに代表される論理関数のコンパクトなグラフ表現の技法を応用し,協力ゲーム理論の再構築を行うことを目的とする.協力ゲームの代表的なゲームの記述方法として提携形ゲームがある.提携形ゲームでは,提携に属するエージェントが協力することによって得られる利得を特性関数で与える.従来,特性関数はブラックボックスの関数で記述されることを仮定している.単純に表形式で記述する場合,n人のエージェントが参加する提携形ゲームでは特性関数の記述に2nの記述量が必要となる.このように,表記量が指数的な問題を扱うことは非現実的である.特に,問題や知識の表現方法によって,表現コストや問題を解くコストが大きく変化するため,表現の簡略化のための基盤技術として,人工知能の技術を適用されることが多い.平成23年度は,ゼロサプレス型二分決定グラフ (ZDD)の一種である,多分岐ZDD (Multi-terminal ZDD, MTZDD)を適用し,特性関数の簡略なグラフ表現法の提案を行った.提案手法は既存手法に比べ,エージェント数に対して指数的に簡略化可能となった.さらに,MTZDDを適用した記述法において,各提携で与えられる利得の和を最大化する,社会的に望ましい提携を形成するアルゴリズムの提案を行うとともに,協力ゲームでの重要な解概念の一つであるコアに対して,コアの非空性判定などを効率的に行うアルゴリズムの提案を行った.これらの研究成果は,マルチエージェントシステムの国際会議 International Conference on Principles and Practice of Multi-Agent Systems (PRIMA2011) にて最優秀論文賞を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情報経済の計算量や記述量の課題を克服し,ネットワーク社会に対応可能な協力ゲーム理論の再構築を行うという研究の最終目標に対して,本年度は,エージェント間での効用が金銭等で譲渡可能であり,外部性がない場合での特性関数の簡略記述法の検討を行った.具体的には,多分岐ZDDを適用した,新たなグラフ表現法を提案し,提案手法が既存手法に比べて指数的に簡略化可能であることを理論的に証明した.さらに,提案表現手法と線形計画法を融合し,新たな提携構造形成アルゴリズムの提案を行うとともに,協力ゲームでの重要な解概念の一つであるコアに対して,コアの非空性判定などを効率的に行うアルゴリズムの提案を行った.従来手法よりも大幅に記述量や計算量の削減を可能にしたことは,今後の研究を進める上でも重要な研究成果である.本研究成果は,本研究課題の要素技術であり,今後の研究を推進する上で重要な技術である.研究成果は,マルチエージェントと人工知能の国内学会である合同エージェント&マルチエージェントシステムワークショップ(JAWS)にて発表し,さらに,マルチエージェントシステムの国際会議であるPRIMA2011にて発表を行った.PRIMA2011では最優秀論文賞を受賞し,対外的にも高い評価が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,まず,平成23年度に提案した簡略記述法の実装及び,大規模な計算機実験を行う.さらに,より複雑な状況を対象にした,特性関数の簡略化記述法の提案を行う.具体的には,エージェント間での効用が金銭等で譲渡不可能な場合や外部性がある場合での特性関数の簡略記述法の提案を行う.計算機実験に関しては,平成23年度にてワークステーションを購入し,大規模な計算機実験を行う予定であったが,関連研究の動向調査を予定よりも詳細に行う必要があったことと,提案手法の理論的性質の証明等に時間を要したため,小規模な問題設定での性能評価しか行うことができず,ワークステーションの購入に至らなかったため,次年度への繰越金が発生した.平成24年度は,大容量のメモリが搭載された計算機を購入し,大規模な問題設定での提案手法の有用性を検証する.エージェント間での効用が金銭等で譲渡不可能な場合や外部性がある場合での特性関数の簡略記述法の提案に関しては,まずは,外部性について着目し,効用は金銭等で譲渡可能であるが,他のエージェントがどのような提携に入っているかで自分の効用が変化するといった外部性が存在する場合の特性関数の簡略記述法の検討を行う.さらに,エージェントが全員フラットな関係ではなく,会社組織のように,エージェント間に階層構造が存在する場合の特性関数の簡略記述法の検討を行う.さらに,提案手法の有効性を評価するために,計算機実験を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
まず,提案手法を大規模な問題設定の下で性能評価するために,大容量のメモリが搭載されたワークステーションを購入する.なお,性能評価を効率的に行うためには,計画通り,ワークステーションが2台必要であるため,平成23年度購入予定分と平成24年度購入予定分を合わせて,平成24年度の購入予定である.消耗品として,ワークステーション用のソフトウェアを購入するとともに,関連書籍の購入を行う.さらに,旅費として,連携研究者である北海道大学 湊教授とのディスカッションのための研究打ち合わせ費,成果発表のための国内学会発表等の国内出張費,海外の関連研究者らとの研究打ち合わせ及び周辺研究動向調査のための海外出張費を計上する.また,国際会議,国際論文誌投稿のための英文添削費及び雑誌掲載に伴う印刷費を計上する.
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