研究課題/領域番号 |
23500169
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
狩野 均 筑波大学, システム情報系, 准教授 (40251045)
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キーワード | アントコロニー最適化法 |
研究概要 |
1. 実世界を想定した多目的最適化の検討: 通常の多目的最適化では、正確なパレートフロントを求めることが目的である。これに対して、現実の問題ではパレートフロントの全域を求める必要はなく、複数の有益な妥協解を高速に求めることが重要である。今年度は、必要な妥協解の数に合わせて探索空間を分割する方法(CS-BAnt)、並びに、目的関数の加重和の比率を妥協解の数だけ変えて単目的ACOを適用する方法(CS-MMAS)を検討し、NSGA-II(GA)、BAnt(多目的ACO)と比較した。以下のことがわかった。(1)CS-BAntは計算速度が最も速いので、リアルタイム問題に向いている。(2)CS-MMASは得られる解の精度が最も高いが、計算時間がかかるので、必要な妥協解の数が少ない問題に対して、最適な方法である。 2. ハイブリッド化および高速化の検討: ACOとDijkstra法をハイブリッド化する方法を開発し、動的環境問題に適用・評価した。本研究では、都市数×都市数×時間ステップ数の行列を用意しておき、都市間の経路を必要に応じて計算・保存すること、ならびに、都市間移動時に交通量は変動しないという仮定を設けることで、時間短縮を図った。さらに、初期解をNN法とGreedy法を組み合わせた方法により高速化を図った。また、 実世界を想定した仮想地図による新たな評価方法を提案し、従来手法との比較実験を実施した。その結果、従来手法よりも約15%の高速化を達成した。 3. 粒子群最適化法(PSO)の検討: 比較およびバックアップとしてPSOの検討も行った。PSOは、連続値問題向けに開発された手法なので、今年度は、これを組合せ最適化問題に適用する検討を実施した。その結果、スケジュール問題に対して、進化戦略(ES)と同等以上の性能が得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、環境が激しく変動する中で大規模な多目的最適化問題のパレート最適解を高速に計算できるアルゴリズムを開発することを目的としている。全体の達成度は、約70%であり、概ね順調といえる。研究実施計画に記載した今年度の内容は、ほぼ終了した。実世界を対象としたシミュレータの開発に関しては、交通量の実測データ(VICSデータ)を利用する方法は開発したものの、シミュレータに組み込むまでには至らなかった。以上の実績について、国内の学会発表1件と国際会議での発表1件を予定通り達成した。 研究計画調書に記載した「1.多目的最適化の検討」については、昨年度に終了した。「2.動的最適化の検討」については、変動の予測値を利用する方法は昨年度、Dijkstra法とのハイブリッド化は今年度に終了した。「3.ACOの高速化の検討」については、局所探索法で生成した近似解を利用する方法は、ほぼ終了した。また、探索過程で発見した近似解を利用する方法、ならびに事前に予測される部分解を利用する方法については、来年度に検討する。「4.並列化の検討」についても、来年度に実施する。「5.実世界を対象としたシミュレータの開発」については、70%完成した。 なお、高速化の基本アルゴリズムに関しては、現在、原著論文として英文学術雑誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、つぎの3点を実施する予定である。(1) 探索過程で発見した近似解の利用による高速化、(2) 並列化の検討、(3) 実世界を対象としたシミュレータの開発(残りの30%)。また、(4) 本研究で開発した手法を別の応用問題に適用することも検討する。更に、群知能のもう一つの代表である、(5) 粒子群最適化法についても検討する。 (4)と(5)は、研究計画調書には記載していないが、研究の過程で重要性が増したため、追加した。応用問題としては、スケジューリング問題などの代表的な組み合わせ最適化問題を考えている。また、粒子群最適化法については、平成24年度に組み合わせ最適化問題への適用方法を検討したので、今年度は、ハイブリッド化について検討したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を実施するために使用する研究設備については、現在の研究環境で十分である。研究費の主な支途は、プログラム作成補助として大学院生を短期雇用するための費用、ならびに研究討論・文献調査・研究発表のための国内外への出張旅費である。 なお、平成24年度の予算残額が約8万円あるが、これは、国際会議の開催地と開催時期の関係で、出張旅費が予定より少なくなったためである。これとは逆に、平成25年度は、出張旅費が多くなる可能性があるため、この残額を繰り越して使用する。
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