最終年度は,既存の合成音声ソフトを応用し,それに新たな音変換ルールを適用することで他の言語に対応させる,より簡易で時間的・金銭的コストの削減を可能とする手法の確立を試み,その有効性を確認する実験を行った。新たに対応させる言語の音変換のルールは,最頻出単語に対する音素マッピングから統計的手法により構築する方法をベースに,母語話者が適切な変換先の綴りを入力することによって作成された。このアルゴリズムの有効性を評価するため,市販のヒンディー語の合成音声ソフトをベースとして,評価が容易な日本語とネパール語の実験システムを作成した。このシステムを用いて複数のニュース記事を読み上げさせたものを,それぞれの言語を母語とし,聴覚能力に問題のない実験協力者聞かせたところ,言語的に近いネパール語では,6~8割の正しい聞き取りが可能であった一方で,日本語ではそれが3割にも満たなかった。この聞き取れる度合いは,読み上げ速度を,上記の元となったヒンディー語の合成音声ソフトの標準的な読み上げ速度に対して0.5倍から1.5倍に変更しても大きな変化は見られなかった。以上から,本研究で提案された方法は,ヒンディー語とネパール語のように音声学・言語学的に近い言語ではその有効性が期待されるものの,実際のマイノリティ言語に応用するためには,アクセントやイントネーションの違い,未知の綴りへの対応,文法情報に基づく音声処理の追加といった各言語に依存した困難が生じることが明らかとなった。
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