研究課題/領域番号 |
23500176
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
有田 隆也 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40202759)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 社会的知能 / 言語の進化 / 心の理論 |
研究概要 |
本年度は,ヒト独自の社会的知能に関わる言語,心の理論,協力に関わる3形質にそれぞれついて,以下のように研究を進展させた.言語に関わる形質に関しては,言語に関する二者間関係を利得行列で表す単純な関係に縮約する一方,ダイナミカルな信号交換をゲーム前交渉として行う枠組みを洗練させた上で,Kirbyらの「伝搬連鎖パラダイム」を採用し,被験者間に多様なコミュニケーションが文化進化で創発するか実験を行った.その結果,ゲーム設定において,多様なコミュニケーションが文化的進化によって創発することが示された.また,2者間の競合度が低いほどゲームが成功することが示された.心の理論に関わる形質に関しては,脳を機能レベルでモデル化し,対人コミュニケーション行動の情報処理構造の基盤を明らかにするため,脳のダイナミクスを含む社会場面の行動モデル構築を行い,複数エージェント間の協力タスクを対象に計算機シミュレーションを行った.その結果,インタラクションする相手の内部状態に応じた心の理論を処理する回路が学習を通しダイナミックに獲得されることを示すことができた.さらに,人間を用いた実験も開始し,心の理論に関する基礎的結果も得られた.協力に関わる形質に関しては,ナッシュ要求ゲームを拡張して,D-I ゲームを定義した上で,ゲーム論的分析と進化シミュレーションを行った.その結果,公正性に関わる3つの規範が存在すること,そのうちの一つは,リバタリアニズム的であるが,実現される社会における利得は平等主義から構成される社会と同じく理想的であることなどを示した.さらに,人間を被験者とした行動実験も行うための3つの手法を考案した.被験者実験の結果,そのうちの進化シミュレーションと同様な多様な戦略が文化進化により創発することが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画書に記載の通り,3つの形質に関する研究を進めることができた.特に計画以上の進展と判断した根拠は,人間を使った実験が計画以上に順調に進んだ点である.計画では,言語と協力に関わる形質に関してそれぞれ人間を用いた実験を行う予定であったが,心の理論に関わる形質を関する実験も開始することができ,得られた結果も良好であった.以上より,達成度に関して(1)の区分であると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
当面,3つの形質に関わる研究をそれぞれ進化させる.その後,徐々に,各形質の進化の間の依存関係,相互作用の検討を開始し,それに基づいた組み込んだ進化シミュレーション,共進化ダイナミクス分析を行う.具体的には,分配的正義が創発するシナリオにおけるコミュニケーションの役割,あるいは,心の理論やコミュニケーション進化における他形質の果たす役割である. 引き続き,3 形質の共進化を基盤で支える適応プロセスにおける学習(表現型可塑性)の役割に着目する.各個体の適応度が他個体形質の頻度に依存し,さらに複数チャネルに相互作用がある抽象的な動的適応度地形モデルを取り扱う.各チャネルでは,言語のように両者の進化レベルが異なると適応度が下がる性質があり,適応度の山谷構造が常に動的変動する.このように注目する形質が複数で,かつ各形質レベル間に相互作用がある状況での学習の果たす役割について,進化と学習の相互作用に関して検討し,共進化型知能創発仮説が表現する適応プロセスの基盤を解明する.最後に,ヒトに特異な社会的知能の進化的基盤に関して得られた知見について,従来の多様な研究領域における理論,言説と比較評価し位置づける.また,研究過程で得られた知見の技術的側面に関して,応用可能性の高いものから優先して評価の上,提案する.
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次年度の研究費の使用計画 |
人間を用いた被験者実験のための計算機として15万円,成果発表のための国内旅費として42万円,外国旅費として35万円を計上している.また,被験者実験の謝金として144千円,論文別刷代として,10万円を計上している.
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