研究課題/領域番号 |
23500176
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
有田 隆也 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40202759)
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キーワード | 社会的知能 / 言語の進化 / 心の理論 / 配分的正義 |
研究概要 |
本年度は,ヒト独自の社会的知能に関わる言語,心の理論,協力の3形質のそれぞれについて,次のように研究が進展し,また3者間の関係について明らかになる基盤が整ってきた. まず,言語に関わる形質については,コミュニケーションの起源や進化を考えるためのインタラクティブ・マイノリティゲームを提案した.そして,リカレント型ニューラルネットワークで構成された3体のエージェントを用いて,ゲーム前コミュニケーションの進化を調べた.その結果,コミュニケーションにおいて,適応的な調停の振る舞いや振動する振る舞いが創発することが確認された.心の理論に関わる形質については,心の理論を実現する基盤的形質として,「心的表象」にターゲットをしぼって構成論的にアプローチした.具体的には,異なるレベルの適応プロセスの相互作用が,環境と心の同型性を生み出すという考えから,「2次的学習が心的表象の機能を生み出す」という仮説をたてた.そして,計算機実験によりそれをサポートする結果を得た. 協力に関わる形質については,ナッシュ要求ゲームを拡張したD-I ゲームを用いて,公正性に関わる3つの規範の創発について,ゲーム理論的解析,進化シミュレーション,リプリケータダイナミクスの3手法によって理論的に検討した. さらに,これら3形質が共通して関連する,基本的な個体間インタラクションの進化に関する理論的検討を行った.具体的には,定量的な形質とその形質の可塑性の両者が進化しうるシンプルな計算論的モデルを設定して方向性選択と正の頻度依存選択の両者が働きうる状況を実現した上で,個体間のインタラクションに基づくダイナミクスのもとで学習が進化を促進しうる条件を明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画書に記載の通り,3つの形質に関する研究を順調に進めることができた.特に計画以上の進展と判断した根拠は,インタラクションにおける表現型可塑性の進化というテーマに関する研究が期待以上に進展したことである.そのことは,その成果が数理生物学の領域のナンバー1のジャーナルに掲載が決まるなど高い評価を受けていることからも示されている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で行ってきた3つの形質に関わる研究をそれぞれ進展させていく.さらに,各形質の進化の間の依存関係,相互作用の検討も可能な限り進めていく.そのために,それらのメカニズムを組み込んだ計算論的モデルに関して構成論的手法に基づく進化シミュレーション,共進化ダイナミクスの分析を同時に行っていく.それとともに,3形質の共進化を基盤で支える適応プロセスにおける学習(表現型可塑性)の役割の検討を進める.各個体の適応度が他個体形質の頻度に依存し,さらに複数チャネルに相互作用がある抽象的な動的適応度地形モデルの検討である.さらに,学習自体の進化を検討する場合に,個体学習と社会学習に2通りの学習方式についても新たに検討を始める.これらの検討を通じて,共進化型知能創発仮説が表現する適応プロセスの基盤を解明する端緒とする.また,ヒトに特異な社会的知能の進化的基盤に関して,従来の多様な研究領域における理論,言説と比較評価して,得られた知見を位置づける.
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次年度の研究費の使用計画 |
国内,国外の旅費で合わせて70万円,および,論文別刷や計算機関連機器等の消耗品として残りの50万円余りを計画している.
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