ヒト独自の社会的知能に関わる「言語」,「心の理論」,「協力」の3形質に関して構成論的アプローチに基づいた検討を行い,その3形質が相互作用しながら進化して社会的知能が創発したとみなす「共進化型社会的知能創発仮説」の理論的な構築と,その応用可能性の検討を行った. 第一に,言語に関わる形質については,前年度に引き続き,脳と言語の共進化モデルの1次元版に基づいた検討を行い,特に,生物進化と文化進化の速度差について,移動エントロピーによる検討によって,その実態を明確化した.そして,生物進化は短時間スケールでは文化進化に追いつけないものの,ある閾値を越えた時間スケールで見ると共進化しうることを定量的に示した. 第二に,心の理論に関わる形質については,前年度までに検討した,二次学習に基づく心的表象の起源に関する提案理論を拡張・応用することにより,他者の心的状態を推測する心の機能である「心の理論」の進化的基盤を説明することに成功した. 第三に,協力に関わる形質に関しては,前年度まで検討してきた「配分のジレンマゲーム」に関して,プレイヤー間に社会的構造を導入することにより,適度な空間的局所性が強力に進化に重要であることを明らかにした. さらに,提案仮説の応用可能性の一端を探るために,協力行為の促進を促すようなシステムのプラットフォームを考案した.被験者実験を行い,その基本的な意義を確かめた.
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