研究課題/領域番号 |
23500186
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研究機関 | 川崎医療福祉大学 |
研究代表者 |
福島 康弘 川崎医療福祉大学, 医療福祉学部, 講師 (00384719)
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研究分担者 |
塚田 稔 玉川大学, 付置研究所, 教授 (80074392)
津田 一郎 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (10207384)
山口 裕 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80507236)
相原 威 玉川大学, 工学部, 教授 (70192838)
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キーワード | 海馬 / 時空間配列情報 / 記憶・学習 / CA1 / カントールコーディング |
研究概要 |
本研究の目的は学習と記憶の情報表現について、『部分と全体の情報をどのように表現しているのか』に着目して生理実験を実施し、その情報表現の基本原理を抽出し、その原理に基づくモデルを構築することである。 具体的には、1.海馬の文脈配列情報(時系列情報)がフラクタルコードとしてCA1に記録されているかどうかを生理実験とモデルで検証する。2.海馬ではボトムアップ(部分情報)の時空間学習則(nonHEBB)とトップダウン(全体情報)のHEBB 則の相互作用によって強化学習がなされるとの仮説を単独ニューロンの空間情報処理に注目して、生理実験とモデルによって検証する。 平成24年度に関しては特に1.に注目し、研究を進めた。研究代表者である福島が研究分担者である相原および指導下の大学院生と共同で、生理学実験を担当した。玉川大学にある高速アンケージング多点刺激装置付の共焦点レーザー顕微鏡装置を利用し、海馬CA3-CA1 の神経回路におけるカントールコーデングの可能性の検証のための生理実験をおこなった。特定順序のランダム時空間系列パターンで刺激を作成し、海馬CA1錐体細胞の樹状突起上の4カ所のシナプス相当領域に刺激をおこなった。データ解析は研究代表者である福島が、研究分担者である津田、山口と共同で行っている。 昨年度は、まず、可塑性の起きない状態(定常状態)でのデータを取得した。その結果、従来おこなったようなガラス電極を用いた実験と同様に、カントールコーディングによる海馬への時系列情報の書き込みがおこなわれることが確認された。次に、可塑的変化の起こりうる条件(非定常状態、学習条件)でのデータの収集をおこなった。現在、樹状突起上の入力位置情報がカントールコーディングによる書き込みにどのように影響するかについて、学習による影響との関連も含めて検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究の結果、共晶点レーザー顕微鏡とケージド試薬を用いた配列情報刺激に対する定常状態でのカントールコーディングが、刺激電極を用いた刺激入力系と同様におこなわれていることを確認できた。このことに加え、(1)カントールコーディングの入力空間依存性(2)非定常状態(学習条件)でのカントールコーディングの精度、の2点を明らかにすることを目的に研究をおこなった。 昨年度、おこなった刺激条件においては、(1)入力空間依存性、(2)非定常状態でのカントールコーディングの精度に関して、十分な検証結果が得られなかった。(1)に関して、刺激の入力位置間の距離を十分に離すことができなかったため、入力位置依存性がはっきりとみられなかったと考えられる。これは、現在、我々が使用している実験装置を用いた場合での実験条件の限界も原因の1つであると考えられる。(2)に関して、今回の刺激条件では、刺激強度が十分に強くなかったため、シナプスの伝達効率の変化がほとんどおこらなかった。結果的に、学習がおこらない条件でのカントールコーディングの精度をみることになり、従来での定常状態での結果とほとんど変わらない結果しか得ることができなかった。これらのことより、新しい実験系においても、従来どおりのカントールコーティングがおこなわれていることを確認できたことの他に、新しい知見をほとんど得られなかったのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度における具体的な条件の変更は、以下の通りである。 (1) カントールコーディングの入力空間依存性に関して:まず、基礎的実験として、刺激位置を細胞体に近い樹状突起側でのカントールコーティングの精度を計測することを考えている。次に、細胞体から遠い位置でのカントールコーディングの精度を計測し、これら2つの精度を比較することにより、樹状突起上の位置でのカントールコーティング精度を明らかにすることを検討している。海馬CA1野のシェファー側枝側の樹状突起では、細胞体に近い領域と細胞体から遠い領域では、CA3からの入力情報の質や抑制性入力の質や量、樹状突起の構造にも違いがあることがわかっている。これらの入力情報の質の違いが、どのようにカントールコーディングによる情報保持の精度に影響を与えるかについて検討していく予定である。その後、刺激位置間での距離を十分に離した実験もおこなうことにより、細胞体から遠近の樹状突起の相互作用について明らかにしていく方針である。 (2) 非定常状態でのカントールコーディングの精度:昨年度の実験条件においては、入力刺激が弱すぎたことに加え、系列刺激を散発的に与えていたことが、シナプスに可塑的な変化をおこせなかった原因であったと考えられる。これらの実験条件を設定した理由は、なるべく、連続刺激における特定のパターンの前の入力の情報の影響を小さくし、実験精度を上げた基礎的な実験結果を得ることを優先するためであった。これらのことを反省し、刺激の連続性を上げた強度の強い新しい刺激系を作成した。この新刺激系列を用いて、学習による可塑性の変化とカントールコーディングの精度について検討していこうと考えている。 また、現在、生理実験の実験装置の精度を上げるための再調整もおこなっている。さらに今年度は、計算論的なモデル実験による生理実験へのフィードバックも強化していく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
やや、研究成果がでるのが遅れ気味ではあるが、基本的な研究方針に問題はないと考えている。従来の研究計画通り、生理学実験の遂行のために必要な実験動物、試薬、各種消耗品に加え、実験データの解析や計算論的モデルの作成に必要なコンピュータ関係のソフトウエアや情報記録装置を中心に研究費を使用させていただきたいと考えている。 また、この研究グループのメンバーの所属機関は、物理的に離れている。スカイプ等の方法を使い、メンバー間の連絡は密におこなってはいるが、情報や意思の疎通にはどうしても限界があるので、研究グループ内でのミーティングを開催するのに必要な交通費や宿泊費に関しても研究費を使用させていただきたいと考えている。 昨年度分の繰り越しがでた理由は主に2つある。1.メンバー間での日程調整が上手くいかず、予定よりミーティングをおこなう回数が少なかったため、その分の交通費が余った。2.データが十分にとれなかったことにより、論文投稿料分の研究費を使えなかった。今年度は、昨年度分での研究達成の遅れを反省し、十分にメンバー間で打ち合わせをした上で、なるべく早くデータをまとめ、論文投稿につなげていきたいと考えている。そのために、昨年度の繰り越し研究費を活用させていただく予定である。
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