研究課題
本研究の目的は,ユーザの気づきによって真の選好を見出す推薦システムを探求し,その有効性を検証することである.その目的遂行のため,本年度は別カテゴリ商品提示による好みの明確化を促す推薦システムを構築し,セレンディピティの実現と被験者実験を実施した.前年度までに考案した手法は,既知の選択項目を追加・削除した新たなプランをユーザに見せることによって予期せぬ良いプランの発見を支援するという受身的な機構である.そこで本年度は,既知の選択項目以外の選択項目をシステムが追加する枠組みを探求し,セレンディピティを向上させる能動的な機構に発展させた.具体的には,ユーザの好みの明確化を促すために類似する別カテゴリの商品を提示することで,ユーザの好みの「具体化」と「変化」を促し,ユーザの好みを明確化させるシステムを提案した.このシステムでは,ユーザの好みと別カテゴリの商品との類似度を計算し,類似度の高い商品から提示する.提案システムの有効性を検証するため,34 人の被験者に対して,家電製品を検索する被験者実験を実施した結果,次の知見を得た.まず,(1)セレンディピティボタンと確定ボタンを持つシステムは,被験者の38%に対して好みの明確化(好みの具体化か変化) の支援に貢献した.特に,(2)入力された商品属性(=希望する商品属性) 重視による別カテゴリ商品の推薦順番ではユーザの好みの変化を促し,一方,商品の持つ商品特徴重視による別カテゴリ商品の推薦順番ではユーザの好みの具体化が促されることが示された.また,(3)確定ボタンを持つシステムは,セレンディピティボタンと確定ボタンを持つシステムよりも好みの明確化の支援効果は小さいが,被験者が自らの好みが明確であると感じているにも変わらず,更なる好みの明確化の支援に成功した. (提案手法とその評価を人工知能学会論文誌において発表した).
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究目的をおおむね達成し,その研究成果の公表として,雑誌論文1件,国際会議発表3件,口頭発表1件の対外発表を行ったため
気づきに基づく個別ユーザ適応型推薦システムの構築と評価前年度までに構築した多種多様な価値観を持つユーザの選好推定機構と予期せぬ良いプラン発見のためのセレンディピティ機構を統合したシステムを構築しその有効性を評価する.具体的には以下の項目の実現を目指す.(1) ユーザ特性分類によるユーザの選好推定精度の向上:昨年度までの研究成果で,ユーザの閲覧行動特性の差異を利用することによってユーザのこだわり度を推定し,ヘビーユーザ(こだわり度大)とライトユーザ(こだわり度小)に分類できた.そのユーザ分類に従い,こだわり度に応じた推薦候補プラン空間提示の範囲および粒度の切り替えるによって推薦精度を高める.(2) 別カテゴリの属性情報提示による好みの視野拡大と明確化支援:ライトユーザは,好み決定に至る閲覧プラン数が少ない.その主な原因は,推薦対象に関する興味や知識の度合いが小さく,結果として好みの視野が狭くなるためである.そこで推薦対象(旅行プランを構成する都市と経路)に関する複数カテゴリの属性情報を提示することにより,主にライトユーザの好みの視野拡大と明確化を支援する.(3) 個別ユーザ適応型のセレンディピティ機構の提示タイミング支援の実装と評価:上述の別カテゴリの属性情報提示では,ユーザの知らなかった属性情報提示に対して関心を持てば,ユーザの好みの視野拡大が期待できる.一方,ライトユーザの好み決定に至る閲覧プラン数を増やすには,持続的な好みの視野拡大が重要である.これを実現するために,ユーザのこだわり度に応じた漸進的な情報提示を実験する.さらに別カテゴリの属性情報を提示するセレンディピティ機構を実装し,個別ユーザ適応型の別カテゴリの属性情報提示タイミング支援についての有効性の評価実験を行う.
・物品費:提案システムの計算時間の高速化(全ノードを探索する手法であるため,規模が大きくなるにつれて計算時間がかかる)と被験者実験の待ち時間の短縮をはかるために,マルチコアコンピュータを導入する.・旅費:本研究での成果を海外での国際会議,Human-Agent Interaction (HAI)シンポジウムや人工知能学会/計測自動制御学会などの国内学会,研究会で発表する予定である.・謝金等:提案システムの有効性を調査するために,被験者実験の補助,データサーバの構築,アンケートの配布・回収,データ整理などの研究補助費用を計上する.
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件)
人工知能学会論文誌
巻: Vol.28,No.2 ページ: 210-219
10.1527/tjsai.28.210