研究課題
23年度には,医用画像内の主要な解剖構造の間に存在する空間的関係(隣接関係)を記述した空間的統計モデルを構築した.各々の解剖構造の位置,形,濃度値については,個人差が存在するが,共通性もあり,互いの位置関係には強い相関があることが多い.そこで,解剖構造をマークしたラベル画像を用い,ラベル間の空間的隣接関係を表す特徴量を定義して計測し,その統計分布のモデル化を行った.また,モデル化のための統計解析法としては,主成分分析や多様体学習について検討した.さらに,生成型学習についても検討した.ここで生成型学習とは,手元にある学習データと類似した特性のデータを人工的に生成し,それらを学習に用いる方法である.特に医用画像の収集は一般に困難であり,比較的少数のデータしか手に入らないことがあるが,そのデータ不足を補ってモデルの性能を強化する意味で意義が大きい.次に,それらの関係を記述したモデルを利用して,複数の構造物を同時抽出可能な新しいセグメンテーションアルゴリズムを考案した.具体的には,複数の解剖構造の間の相対的な位置関係を守りながら,ある評価関数を最適化するアルゴリズムを考案した.また,実画像を用いた評価実験を実施し,アルゴリズムの有効性を確認した.その他,手法の設計と評価のための画像データベースの作成も並行して進めた.その際,モデル化のために必要な複数の解剖構造のラベル画像の作成も同時に進めた.
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で述べたとおり,当初の目的をおおよそ達成することができた.具体的には,空間的関係(隣接関係)を記述した空間的統計モデルの構築,手法の設計と評価のための画像データベースの作成の両者について当初の目的を達成した.
今後は,異常部位も含めて解剖構造との相互のモデル化を進める.モデル化の基本的な方針はこれまでと同様であるが,異なる点は,異常部位を含むことと,複数のパターンが時間と空間にわたって互いに相関を持ちながら統計的に変動する現象のモデル化を行う点である.まずは,複数のパターン間の相関の定量化に適した,時空間特徴量を検討することからはじめる.また,隣接関係だけでなく,時間的共起関係を表現する特徴量についても検討する.その後は,特徴空間内の分布を統計的に解析してモデル化する.ここでも,主成分分析から多様体学習や計量学習まで幅広く検討し,汎化性や特異性の観点から最も優れたモデルを構築することを目指す.
民間企業を含む海外の研究機関や研究者の訪問・打ち合わせ,国際会議での情報収集を実施して,最新の研究情報の収集に努める.また,画像処理のための高性能なコンピュータを購入する.さらに,より高度なモデル構築のための新しいラベルの作成作業を実施する.なお,次年度使用額が発生した主な理由は,医用画像データの収集とラベル作成に予想以上の時間がかかり,大量のデータに対する処理の予定を次年度に変更し,処理用のコンピュータ購入費用を次年度に繰り越したためである.
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Journal of the Institute of Image Information and Television Engineers
巻: vol.65, no.4 ページ: 432-435