研究課題/領域番号 |
23500254
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
首藤 文洋 筑波大学, 医学医療系, 講師 (10326837)
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キーワード | 音 / 音楽 / 空間 / 体験 / 脳機能 / 生体反応 / 自律神経 / 主観と客観 |
研究概要 |
ヒト被験者実験に関しては昨年度から引き続き、評価実験実施時の被験者の生体反応を記録することによる主観的評価決定の妥当性検証に必要な客観的指標の解明のために必要な予備的実験を行った。具体的には、音環境による聴覚刺激を提示した際に感じる空間イメージを評価するための無段階に提示画像の視野角度を変化させるインターフェイスの構築とその操作をダイレクトに無段階評価情報として、同時に取得する脳活動や自律神経活動などの生体反応計測と同期したリアルタイム計測を可能とするインターフェースの構築である。本年度までにこれらのインターフェースが完成した。モデル動物実験では昨年度から引き続き齧歯類を使った個別の音環境と組み合わせた生活体験モデル動物を使って、明らかに後天的に得た音環境刺激が本能をはじめとする脳機能とどのように関わっているのかその生物学的メカニズムを明らかにする実験を行った。具体的には、昨年度明らかにできなかった、個別の音環境と組み合わせた生活体験がマウスの脳機能に影響することを明らかにした。昨年度からの変更点として、マウスに一日を好環境16時間と悪環境8時間として飼育し、好環境下と悪環境下で異なる音楽もしくは音刺激を提示した。飼育9日後に、防音箱中の通常環境ケージに移して新規音楽刺激と好環境下で聞いた音刺激および悪環境下で聞いた音刺激の3つを聞かせ、そのときの自律神経反応を計測した。この結果、好環境下で聞いたときのみ心拍数が有意に減少し、新規音楽刺激と悪環境下で聞いた音刺激では同等に心拍数が増加した。また9日間を環境刺激と音刺激の両方にさらさずに通常ケージで飼育した対照群では前述の被検群で用いた3つの音刺激のいずれを提示した場合にも同等に心拍数が増加した。これはマウスにおいて音環境と生活体験の組み合わせで体験誘導型の情動反応が起こる事と動物での生活体験モデルが成立する事を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では音を聞いたときに被験者が受ける主観的な印象とその時に脳内で展開される空間イメージとの相関を明らかにする事が目的である。これらの事項は情動記憶の本体に直結する重要な要素だが、客観的に表現することが難しい。そこで、被験者が表現した結果の妥当性を生理学的な指標を使って検証するという主観評価の新しい方法論実験的プラットホームの確立が研究の中核となる。現在までに音環境による聴覚刺激を提示した際に感じる空間イメージを評価するための無段階に提示画像の視野角度を変化させるインターフェイスの構築とその操作をダイレクトに無段階評価情報として、同時に取得する脳活動や自律神経活動などの生体反応計測と同期したリアルタイム計測を可能とするインターフェースの構築が完成している。最終年度はこの方法論を使って実際の被験者実験を行い、それにより得られたデータを解析する事で当初の目的を達成できる。また、脳神経科学的構造の理解に不可欠なモデル動物実験ではすでに哺乳類で共通の基盤に立っている情動や自律神経の活動に深く関わる本能にかかわるシステムで、環境音刺激と生活経験を組み合わせることで新たに人為的に音環境の中で情動体験をさせたモデル動物を作成する事が可能な事を明らかにした。今後はこのモデル動物を使ってその脳神経科学的構造を形態学的・生理学的・生化学的実験で多角的に明らかにする事ができる。以上の研究から最終年度の研究でこれらの生物学的基盤の上に確立された客観的な検証法に基づいた、気分を安定させる音を聴いた時の主観的な印象評価と空間イメージ表現と、その音を聴いたときの脳活動や自律神経反応の生理学的計測から得られる反応の特徴を有効な指標としてまとめ、気分を安定させる音環境の設計を可能にする感性官能評価法を確立できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では、これまでに確立したヒト被験者実験に関して音を聞いたときに被験者が受ける主観的な印象とその時に脳内で展開される空間イメージとの相関を明らかにするためのに被験者が表現した結果の妥当性を生理学的な指標を使って検証するという主観評価の新しい方法論の実験的プラットホームを使い、音環境による聴覚刺激を提示した際に感じる空間イメージを評価するための無段階に提示画像の視野角度を変化と同時に同期的に取得する脳活動や自律神経活動などの生体反応計測とのリアルタイム計測を実際に被験者を使って実験を行い、それにより得られたデータを解析する。また、脳神経科学的構造の理解に不可欠なモデル動物実験ではこれまでに情動や自律神経の活動に深く関わる本能にかかわるシステムで、環境音刺激と生活経験を組み合わせることで新たに人為的に音環境の中で情動体験をさせたモデル動物を作成する事が可能な事を明らかにした事を受けて、このモデル動物を使ってその脳神経科学的構造を形態学的・生理学的・生化学的実験で多角的に明らかにする。具体的には、モデル動物における音環境と生活体験の組み合わせ経験が成立する脳機能メカニズムを明らかにするため、侵襲的実験を使いこの現象に深く関わる脳内物質や脳部位の特定を行う方針である。そして、音環境や生活環境刺激の組み合わせを変えて検討を進める事で本能的に動物の気分を安定させるためにより効果的な方策をまとめる。以上のヒト被験者実験とモデル動物実験の結果を統合して音環境の設計に資する感性官能評価法を確立する
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度ではヒト被験者実験に関してより正確な生理学的指標を得るためのシステム作りのために必要な生理計測機器の購入を予定している。また、被験者に対する謝金や被験者実験で用いる計測プローブなどの消耗品を購入する予定である。モデル動物を使った実験では、動物およびその飼育に必要な消耗品の購入のほか、実験結果の適切な評価のために必要な、齧歯類で可聴だがヒトでは可聴域外となる20000Hzから100000Hzの音の周波数に対応した解析に必要な音響機材の購入、また形態学的・生理学的・生化学的解析を行うために必要な試薬や実験器具等の消耗品を購入する予定である。さらにこれまでに得られた成果を国内外で公表するための学会参加費と交通費、また研究論文の上梓に関わる投稿料などの諸経費を使用する予定である。
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