昨年度にシステムの概要が完成した被験者の主観的評価を客観的な生体反応計測による情動反応との連関から明らかにする感性評価装置を完成させた。被験者に生体計測記録プローブを装着して着座させ環境音とディスプレイからの風景画像を同時提示した。前述の装置のスライダーを左右に動かして風景画面の画角を変更させるシステムとして設置し、被験者が提示音に対して合致したと感じる風景の画角になるまで自由にスライダーを調整させ、この間の生体反応およびスライダーの位置情報をリアルタイム記録した。そして、スライダーが停止するまでにかかる時間は音と風景が適合した組み合わせで最も少なく、音と風景が不適合の組み合わせで最も多かった。生体反応計測では、音と風景が不適合の組み合わせでスライダー停止後に皮膚電気抵抗が高くなる傾向が見られ、提示した音と画像が一般的に適合している場合では、両者の適合が曖昧な場合と比較して画角決定操作による空間イメージのアウトプットが速やかな事、また後者では画角決定後に交感神経活動が高まる事を見出した。動物実験ではヒトには聞こえずマウスで可聴な高周波音を再現する音響装置を使った音提示実験システムを前年度の結果を補完すべく構築した。また最終年度にあたり、これまでの研究を国内外の生物学領域と感性科学領域の学会で積極的に発表、討論を行った。新開発した感性の主観評価結果の意義を被験者の生理指標から客観的に評価する装置に対して関心が寄せられたほか、実験方法を工夫すれば生活経験で獲得した後天的な情動に関する記憶を標的とした実験の動物モデル化が可能であるとの成果に対してその有用性を認める意見が多かった。しかし、条件反射との違いの明確や情動に対する効果の保持時間など補足するべきいくつかの事項が示された。これらの点は今後展開する研究で明らかにしなければならない。
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