本研究では、正倉院に保管されこれまで宮内庁から写真公開されている御物に描かれている文様からアンケートを通して嗜好性を明白にすることで、工学的なデザイン指針データを得ることである。 アンケートのために経年劣化や破損部分を補修し、完全なデザインデータとして白地イラスト線画や彩色画を、文様をベクター画像化することで作成した。ベクター画像化されたデータは色調変換、部分画像抽出、幾何学的配置変換などが簡易であり、企業27社(平成28年3月現在)で使用されている他、自治体でも使用されている。電子データ化された文様は、目標としていた150を超え160種となり、研究期間終了後もその数を増やしている。また、そのデータベースはWEB上に公開しているほか、一部は書籍として出版された。http://www.nara-wu.ac.jp/liaison/product/old_design.html アンケートは、74種の文様に対して複数の色彩を施し、平成26年6月-10月にかけて奈良女子大学での公開講座等で来学された一般の方に依頼する形で実施。有効回答数116 (男性31女性83、回収率は40%未満:目標200名には及ばず)より、デザイン画1つに対して、「日本的、西欧的、中国的、古典的、好感度、デザイン性、現代的、神秘的、可愛い」の9項目について6種数字での回答を指示した。現存する実物の画からはほとんど感じられなかった「現代的」というキーワードのみならず「可愛い」というキーワードでさえ色彩によってコントロールできること等を実証させた他、オリジナル画に対して20%ポイント心理変化する彩色画での特徴はヒストグラムにおいて黒色の使用にあること、30歳未満の女性の色彩による画への心理変化率が高いこと、「好感度」というキーワードに対しては30歳未満女性と全体では相関が薄いこと(0.65)を明らかにした。
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