研究課題/領域番号 |
23500261
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
茅原 拓朗 宮城大学, 事業構想学部, 教授 (00345026)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 雰囲気音 / 二重符号化仮説 / 聴感評価 / 情動 |
研究概要 |
平成23年度は計画通り、本課題の作業仮説である雰囲気音の二重符号化仮説(映像作品等で場の雰囲気をあらわす効果音(雰囲気音)は大きく後景音と前景音の2要素によって構成されているとする仮説)のうちの後景音を取り上げ、パラメータ抽出のためのドキュメンタリー等の映像作品の音の解析と、実験的な検討の両面から検討を行った。実験的な検討の方では、後景音のうち雑踏音に注目してまず雑踏の規模(群衆の人数)がどのような特徴量によって決まっているかを、要素音(足音)をミキシングで加算し聴感評価を行うことで探った。ところが、要素音を単純に加算しただけでは聴感上の規模は増大せず、背景音以外の何らかの要因の関与が示唆された。本課題では、この新たな要因として前景音との相互作用を仮定し、次年度以降に臨む。一方、音の解析では既存の映画等の資料の音声トラックの分析も行い、実験パラメータ抽出あるいは新たな仮説構築につながる知見を得ることができた。特に示唆があったのは、ドキュメンタリー映像のような一般に作為が許されないと考えられている映像にも、視聴者の情動を一定の方向に導くために後から音が付加されていることがあるという発見であった。特に、前景音に当たる音が付加される場合は明らかな作為として社会的に問題になることに比して(例えば福島第1原発の水素爆発映像にドイツの放送局が爆発音を付加し問題になったケース)、背景音の付加は社会的にあまり問題にならず(その使用すら気づかれておらず)視聴者の情動の方向づけのためにしばしば利用されていることを見いだした(例えばナショナルジオグラフィック社の東日本大震災のドキュメンタリーの冒頭部分では視聴者の不安を喚起するような低音のドローン音が気づかれないようなレベルで付加されている)。本課題では、背景音の情動に対する機能性も新たな検討事項として次年度以降に臨む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災により研究代表者の所属機関も被災したためスタートは若干遅れたが、おおむね計画どおり、本課題の作業仮説である雰囲気音の二重符号化仮説のうちの背景音について音の解析と、実験的な検討の両面から検討を進めることができた。特に、2年目にあたる平成24年度研究を方向付け(背景音と前景音は加算的に機能するのではなくなんらかの相互作用のもとに機能している可能性がある)、かつ映像等における音の使用に新たな光を当てる(背景音は視聴者の情動を方向付ける機能を持ち、実際にドキュメンタリー等の映像作品でも意図的に付加されている)知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、2年目にあたる平成24年度は1年目の後景音の検討とはある程度独立に前景音について検討する計画であった。しかし、1年目に後景音の検討をするなかで後景音が機能的に独立していない可能性を見いだしたため、平成24年度に前景音を検討する際は、はじめから後景音との相互作用という観点から前景音を検討する(前景音と後景音を組み合わせた検討は当初は3年目に計画されていたため前倒しとなる)。特に検討したいのは、前景音が場のラベリングをおこない、後景音の機能はそこからトップダウンに導かれる、という仮説についてである。また、後景音の検討も引き続き行うこととしていたが、特に新たな検討事項として、後景音が情動にもたらす影響について引き続きドキュメンタリー等の映像作品に取材して音声トラックの分析を行うと同時に、無意識的な聴取と情動の喚起の関係について検討する(先述の音声トラックの分析では多くは視聴者が気づかないようなレベルで後景音が記録されていたため)。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述の推進方策に従い、引き続き資料および実験用機材(ただしメディアやケーブル等の消耗品が中心)と実験協力謝金を中心に研究費を使用する。当初計画では2年目以降は特に新規の実験機材を購入する予定ではなかったが、1年目の繰り越しを活用して新たな検討課題として加わった情動状態を測定するための装置等(PGR測定装置等)の導入を検討する。また、外部への成果報告を加速し特に国際的な場での発表に力を入れる。
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