本研究課題では、映像作品等で場の雰囲気をあらわす効果音(雰囲気音と呼ぶ)が大きく後景音と前景音の2つの要素から成り立っているのではないかという仮説(雰囲気音の二重符号化仮説)から出発して、情動的反応など一定の効果をもたらすための音と音、あるいは音とその他のモダリティの要素の統合過程について主に心理物理的手法により聴感評価を行いながら検討を行った。 初年度となる平成23年度は音を単一の足音を足し合わせることで生成した雑踏の規模感を心理的に評価する実験を行い、足音を加算していっても聴感上は数人程度の規模感で頭打ちになってしまう現象を見いだした。雑踏やにぎわい等の表現において背景音そのものに加え何らかの付加的な要素との相互作用が必要なことが示唆された。また、実際の映像作品のサウンドトラックの分析も行い、ドキュメンタリーであっても一定の情動的な反応を導くために背景音が編集段階で付加されている場合があることを見いだした。 そのため、2年目以降には、要素間の相互作用が情動に与える影響に着目し、まず一定の情動反応が期待できる匂いへの反応を指標として匂いに対する音の影響を検討したところ、確かに音が匂いによる情動反応を装飾することが見いだされ、また匂いの良し悪しによってその影響の非対称性があることなどが分かった。また、視覚要素との相互作用については、表情を指標として顔と声の性別の一致不一致を操作しながら、声の意味内容が表情判断に及ぼす影響を検討したところ、性別が一致しているときに声は表情判断に影響を及ぼすが人工音声の場合など条件によっては影響が見られないことなどが明らかとなった。 最終年度である平成26年度には、さらに視野内に音源となる視覚オブジェクトが存在しない場合についての音の影響の検討にも着手し、本研究課題を継続的に発展させた課題(課題番号26330311)への接続を図った。
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