研究課題/領域番号 |
23500278
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
野村 厚志 山口大学, 教育学部, 准教授 (40264973)
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研究分担者 |
岡田 耕一 山口大学, 大学教育機構, 講師 (50452636)
水上 嘉樹 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (60322252)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 結合興奮子系 / 反応拡散系 / エッジ検出 / ステレオ視差検出 / Turingパターン / 異方性 / 時間遅れ / FitzHugh-Nagumo |
研究概要 |
本研究の基礎となる結合興奮子系及び反応拡散系の数値計算を確認し、それらを用いた画像からのエッジ検出やステレオ視差検出、Turingパターンの形成を確認した。 まず、エッジ検出を確認する際、FitzHugh-Nagumo型の反応項を持つ結合興奮子系において、白黒反転画像を用いることや、結合強度に異方性を導入することで、濃淡画像からのエッジ検出の精度向上や、エッジの方向検出が可能となることを見いだした。その反応項は興奮性変数・抑制性変数の2変数を持ち、抑制性変数を通じた結合強度を興奮性変数のそれに比較して大きく設定する。さらに、抑制性変数を支配する方程式と興奮性変数の方程式の間に時間差を導入することで、濃淡画像からのエッジ検出が可能となり、なおかつ、元画像に含まれるノイズの除去にも効果があることを見いだした。 次に、多重反応拡散系を用いたステレオ視差検出を確認する際にも、拡散係数に異方性を導入することを着想し、その計算機アルゴリズムの実現を試みた。人間の視覚系における奥行き知覚には、異方性:水平方向の奥行き勾配があるものと垂直方向の奥行き勾配があるものとでは、異なって知覚されることが知られている。反応拡散系を用いたステレオ視差検出が、人間のステレオ奥行き知覚の数理モデルになり得るとの仮説により、異方性を導入したアルゴリズムを実現した。幾つかのステレオ画像に対してそのアルゴリズムを適用し、精度及び収束性を確認することで、異方性が生じるか否かの確認を行った。その結果、潜時についての異方性は見られなかったが、精度については、若干の異方性が見られた。 さらには、Schnakenberg(1979)の反応拡散モデルを用いて、1次元において形成されるTuringパターンの空間周波数とパラメータとの関係を確認した。画像の濃淡分布をTuringパターンで表現するための基礎的な知見を蓄えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたように、本研究課題の基礎となる結合興奮系及び反応拡散系を用いた画像のエッジ検出・ステレオ視差検出の計算機アルゴリズムを確認する際に、思いがけない着想があった。その確認及びさらなるアルゴリズムの発展、国際研究集会での成果報告に時間を要した。このため、本来の目的である明るさ知覚に関する数理モデルの構築や、画像工学への応用はやや遅れている。本年度達成した事項としては、Schnakenberg(1979)の反応拡散モデルを用いて1次元でTuringパターンの再現を行ったこと、その空間周波数を変調するためのパラメータ設定に関する基礎的な知見を蓄えたこと、の2点である。すなわち、Schnakenbergの反応拡散モデルは2変数からなる連立方程式であり3つのパラメータを有するが、そのうち方程式の反応速度を決めるパラメータに空間分布を持たせることにより、周期パターンの周波数を空間的に変調できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず2次元においてTuringパターンによる画像の濃淡分布の表現アルゴリズムを実現する。Schnakenberg(1979)の反応拡散モデルによるTuringパターンの空間周波数は反応速度のパラメータによって変調可能であるので、濃淡画像の明るさによってTuringパターンの周波数を変調する画像の表現方法を検討する。このとき、拡散異方性を導入する必要があると予測しており、本年度蓄えた知見を役立てる。また、画像として特殊なもの、すなわちハーマングリッド錯視を引き起こすような濃淡分布を与えたとき、どのような結果が得られるか、また人間が知覚する明るさ分布との相違を確認する。Kuhnertらは、光感受性を持つ反応拡散系によって明るさ分布から領域分割を行う実験室実験を報告した。この領域分割は、固定閾値を用いた2値化処理による画像の明るさの量子化(2値化)と考えることができる。本研究で提案するTuringパターンを用いた画像の表現方法と、Kuhnertらの方法、他の画像処理において提案されている既存のアルゴリズムとを比較する。 人間の視覚系においては、空間周波数チャネルごとに処理が行われ、その後、それらの処理結果が統合されると考えられている。この考えに従うと、入力された画像(明るさ情報)を空間周波数チャネルに分ける何らかの処理・仕組みが人間の視覚系に備わっていることになる。そのような仕組みをTuringパターン・反応拡散系を用いて実現することを試みる。そのためには、Turingパターンよりもむしろ、結合振動子系の方が適しているかもしれない。この点についても検討する。 Turingパターンは周期パターンであり、3次元物体に投影し、それをカメラで捉えることにより、3次元計測に応用する新たな着想をも得た。この点についても追加課題として検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、周期的な明るさパターンを投影するための画像計測用パターン投影装置及びそのパターン生成のための計算機を新規に購入する。さらなる数値シミュレーション実施のため、初年度に購入したものに加えて、補助的な数値シミュレーション用の計算機及びそのための周辺装置を購入する。研究成果を発表するため、海外出張旅費(日本・ヨーロッパ間)・外国語論文校閲・国際学会参加費を利用する。
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