研究課題/領域番号 |
23500293
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷口 祥一 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (50207180)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メタデータ / FRBR / 著作同定 / 表現形同定 |
研究概要 |
本研究は、現行の図書館目録のメタデータ(書誌レコード、典拠レコード)を、(1)FRBR(「書誌レコードの機能要件」)に準拠したメタデータとして効率的に整備する方法を提案し検証すること、および(2)それらメタデータを用いたFRBR型の効果的な検索システムを構築することを目的としている。 今年度は上記の課題(1)について、(1)日本の古典著作に限定し、その効率的な同定法(同一著作に対する書誌レコード群の同定)を検証するため、人手による同定作業を実施した。同定作業に並行して、FRBRにおける著作の定義に依拠しつつ実作業に適用できるレベルの同定基準、かつわが国固有の書誌・典拠レコードに適合した基準を検討し策定した。また、これらの同定作業結果および同定基準を広くインターネット上で公開した。こうした成果の公開は、他研究者による同種の研究を誘発する、もしくは多様な活用に結びつく可能性があり、重要な意義をもつ。なお、同定作業には、わが国の標準的なレコードである国立国会図書館作成の書誌レコードを使用した。また、表現形の同定や著作間の関連の同定についても、その実現可能性を検証した。 併せて、(2)計算機プログラムによる機械的な著作同定、および同一体現形とすべき書誌レコード群の書誌同定を試みた。実験対象の書誌レコードは、国立国会図書館作成によるものに加えて、多数の図書館によるレコードを集めた総合目録のレコードを実験用に借用し使用した。古典著作等、機械的な同定が困難なものを除いては、概ね良好な著作同定結果および書誌同定結果が得られることを確認した。 課題(2)については、前記した著作同定作業結果の公開システムを、FRBR型の検索システムを模して実装した。 なお、これら研究課題の遂行は、本研究代表者もその構成員であるFRBR研究会と協調して行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)著作および表現形の同定基準の設定と公開:日本の古典著作に限定されるが、FRBRにおける著作の定義に依拠しつつ、実作業に適用できるレベルの同定基準を設定できた。その際、関連する基準その他を勘案し検討したこと、および策定した同定基準を広く公開したことを含めて、目的を概ね達成できたと自己評価している。なお、表現形の同定基準および著作間の関連の同定基準については、困難度が高く、今後の課題とした。(2)効率的な著作同定法、表現形同定法の検証:先に設定した著作同定基準に基づき、わが国の書誌・典拠レコードの特性を踏まえた効率的な著作同定法を提案し、人手による著作同定作業において実行可能性を検証した。対象とした著作数など未だ量的に十分とはいえないが、実際の同定結果を公開したことも含めて、十分に意義ある成果が得られたものと評価する。なお、人手による同定作業を支援するためのツールの検討と開発は、部分的なものに留まった。 並行して、著作の照合用キーを生成し同定を図る方式など機械的同定法を試み、意義ある実験結果が得られたものと評価する。ただし、対象とする書誌レコードの特性から、単一書誌レコードに対して主たる著作を一つ同定する方式に限定している。なお、機械学習の効果的な適用や、表現形の同定処理については未着手である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究課題(1)著作および表現形の同定基準の設定と公開、および(2)効率的な著作同定法、表現形同定法の検証を継続して実施する。特に、古典著作以外の、新たな種別の著作を対象にその同定基準の策定と同定作業を実施する。同時に、表現形の同定が実施可能であるのか、再度検証を試みる。 また、(3)同定結果、同定支援ツールの一層の公開と有効性の検証を図る。現在、同定作業結果をデータベースに蓄積し、(a)同定結果の記録化である著作レコードを公開する方式、および(b)同一著作として同定された書誌レコード群のISBN、MARCレコード番号等の識別子をWeb APIを用いて公開する方式の2つを実装しているが、いかなる公開方式が有効であるのか改めて検証する。加えて、開発した同定支援ツールや機械的同定アルゴリズムを積極的に公開する。(4)FRBR型検索システムの構築:著作の同定結果を含め、整備したレコード群を活用した有効なユーザ向け検索システムを開発する。システムは、著作と体現形の間を自由に行き来できるナビゲーションを実装したものとする。併せて、適切なシステム評価手法を検討し、新規開発システムと既存のFRBR型検索システム(欧米のシステム)とを対象にユーザによる評価実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、1)人手による著作同定作業をFRBR研究会との連携によって実施するにとどめ、指導する大学院生を加えた体制での同定作業実施を見送ったため、謝金の支出がなかった。加えて、2)成果発表を主に海外学術雑誌への投稿により実施したため、海外で開催される国際会議参加にかかる旅費の支出がなかった。これらの結果、次年度への経費繰り越しが発生した。 次年度は、これらの繰り越し経費を合わせ、下記の通りに使用する計画である。1)著作同定処理(人手による同定処理および機械的手法による同定処理)用と、システム開発用・評価実験用のパーソナルコンピュータを追加購入する。2)同定作業用・機械的同定実験用のデータ(書誌・典拠レコード群)については、引き続き実験目的で借用できるものは借用により入手するが、購入が求められる民間企業作成の書誌レコード等は購入する。3)人手による同定作業をできるだけ大量に実施するため、大学院生等による同定作業を計画する。そのための人件費(研究補助者に対する謝金)を計上した。4)上記以外の経費としては、a)研究遂行上必要となる図書の購入経費、b)成果発表用旅費、およびc)成果公表に伴う英語論文原稿の校閲費等を予定している。
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