研究課題/領域番号 |
23500293
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷口 祥一 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (50207180)
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キーワード | メタデータ / 図書館目録 / FRBR / 著作同定 / 表現形同定 |
研究概要 |
本研究は、現行の図書館目録のメタデータ(書誌レコード、典拠レコード)を、①FRBR(「書誌レコードの機能要件」)に準拠したメタデータとして効率的に整備する方法を提案し検証すること、および②それらメタデータを用いたFRBR型の効果的な検索システムを構築することを目的としている。 今年度は上記の課題①について、(1)日本語に翻訳された海外著作に限定し、その効率的な同定法(同一著作の各種翻訳資料に対する書誌レコード群の同定)を検証するため、人手による同定作業を実施した。並行して、FRBRにおける著作の定義に依拠しつつ実作業に適用できるレベルの同定基準、かつわが国固有の書誌・典拠レコードに適合した基準を検討し策定した。なお、同定作業には、わが国の標準的なレコードである国立国会図書館作成の書誌レコードを使用した。 併せて、(2)計算機プログラムによる機械的な著作同定を試みた。国立国会図書館作成による書誌レコードを対象に実験を行ったが、これまでに各種機関で作成された既存の翻訳資料リストなどを組み入れることの有効性についても実験により検証を進めた。 なお、これら研究課題の遂行は、本研究代表者もその構成員であるFRBR研究会と協調して行った。課題②については、今年度、実質的な進展を示すことができなかった。 加えて、FRBRに依拠し新たに策定されたメタデータ作成基準(目録規則)であるRDAに対して、著作・表現形にかかわる規定を含めて、主に理論的側面からの検討を行った。RDAに基づき作成・提供されるメタデータが、今後特に海外では増加していくものと予測されるため、本研究課題にとっては、FRBRにとどまらず、RDAの理解と検討が不可欠な位置づけとなるからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)著作および表現形の同定基準の検討:日本語に翻訳された海外著作について、FRBRにおける著作の定義に依拠しつつ、実作業に適用できるレベルの同定基準を設定できた。並行して、既存の複数の翻訳資料リストを参照し、それらの間に同定結果の揺れ(すなわち同定基準の揺れ)があることを併せて確認している。 (2)効率的な著作同定法、表現形同定法の検証:先に設定した著作同定基準に基づき、わが国の書誌・典拠レコードの特性を踏まえた効率的な著作同定法を提案し、人手による著作同定作業において実行可能性を検証した。対象とした著作数など未だ量的に十分とはいえないが、今後継続して作業を進める予定である。 並行して、機械的な同定処理を適用する際に、既存の翻訳資料リスト等を組み入れることによって性能向上をもたらすのか検証を進めている。 (3)RDAの検討:FRBRに依拠し新たに策定されたRDAにおいて、著作および表現形がどのように扱われているのか検討した。さらに、その前提となるRDA全体の構造的把握と検討を行い、(a)RDAはFRBRに依拠しつつも独自の概念モデルを有すると捉えるべきこと、(b)著作・表現形を含めて集合的実体と構成的実体の扱いについては、RDAモデルとそれに基づく記述規則の双方において未確定な部分が残されていること、および(c)RDA全体をDCアプリケーション・プロファイルの観点から捉えることがその理解にとって有効である点などを明らかにした。 (4)FRBR型検索システムの構築:昨年度開発した検索システムのままとしており、新たな進展を示すことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)著作および表現形の同定基準の設定と公開、および(2)効率的な著作同定法、表現形同定法の検証を継続して実施する。特に、今年度着手した海外著作を対象に、同定基準の策定と同定作業を実施する。加えて、機械的な同定処理における、既存の翻訳資料リストの有効性の検証(効果的な活用法の開発を含む)を完了させる。 (3)同定結果、同定支援ツールの一層の公開と有効性の検証を図る。現在、同定作業結果をデータベースに蓄積し公開しているが、いかなる公開方式が有効であるのか改めて検証する。そこでは、近年注目されているLinkedデータをも視野に入れたデータ公開の検討とする。 (4)FRBR型検索システムの構築:著作の同定結果を含め、整備したレコード群を活用した有効なユーザ向け検索システムを開発する。併せて、適切なシステム評価手法を検討し、新規開発システムと既存のFRBR型検索システム(欧米で開発されたシステム)とを対象にユーザによる評価実験を行う。並行して、LinkedデータそしてRDF形式データに対するSparqlをベースとした検索システムの実現方式についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議における成果発表に代えて、学術雑誌への論文掲載による成果公表を採用したため、海外旅費として計上していた分の残額が発生した。また、実験にかかる作業を研究協力者とともに行ったため、人件費(研究補助者に対する謝金)の支出がなかった。これらが、次年度使用額が生じた理由である。 次年度は、著作同定処理(人手による同定処理および機械的手法による同定処理)用と、システム開発用・評価実験用のパーソナルコンピュータを追加購入する。 同定作業用・機械的同定実験用のデータ(書誌・典拠レコード群)については、引き続き実験目的で借用できるものは借用により入手するが、購入が求められる民間企業作成の書誌レコード等は購入する。 また、人手による同定作業をできるだけ大量に実施するため、大学院生等による同定作業を計画する。そのための人件費(研究補助者に対する謝金)を計上した。 上記以外の経費としては、1)研究遂行上必要となる図書の購入経費、2)成果発表用旅費、および3)成果公表に伴う英語論文原稿の校閲費等を予定している。
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