研究課題/領域番号 |
23500294
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
芳鐘 冬樹 筑波大学, 図書館情報メディア系, 准教授 (30353428)
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キーワード | 図書館情報学 / 情報図書館学 / 研究評価 / 社会ネットワーク / 科学社会学 / 科学計量学 / 計量情報学 / 計量書誌学 |
研究概要 |
学術論文を対象にして学際的・分野横断的研究の特性を明らかにするための観点と指標を検討・設定した前年度の研究結果を踏まえ,平成24年度は,学術文献だけでなく,より応用指向の研究・開発成果である特許文献に対象を拡張して分析を行った。1993年から2007年までの国内の特許出願について,学際性(引用文献の分野の多様性)が,特許の被引用数や,パンテンタビリティ(審査において受理されるか否か)にどのように影響を及ぼすかなどに関する調査を行った。国立情報学研究所のNTCIRテストコレクションを情報源として,日本国公開特許公報全文データを用いた。分析結果から得られた主な知見は,以下の2点である。 (1) 特許文献を被引用数が高い特許群と低い特許群に分け,それらが引用している特許の多様性を比べた結果,全体でも何れの領域でも,高被引用群の方が低被引用群よりも有意に高い値であった(p < 0.05)。 (2) 特許公開後10年間の被引用数を応答変数とし,発明者数,付与分類数,ページ数,図数,表数,請求項数,優先権主張数,優先権主張国数,引用特許の分類数を説明変数として用いた線形・ロジスティック・ゼロ過剰負の二項回帰分析により,被引用数に対する引用特許の分類数(学際性・分野横断性)の影響を示唆する結果が得られた。特に,化学・冶金,機械工業・照明・加熱・武器・爆破,物理学領域において,その傾向は顕著であった。 このような客観的指標に基づいて研究領域の特徴を計量する分析は,学術・科学技術政策への示唆だけでなく,「学際性とは何か」の再検討に資する知見が得られるという点でも意義を持つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画として挙げている3点について,それぞれ,下記のように部分的に拡張しつつ,おおむね予定どおり進めた。 (1) 対象領域について,文献(特許)の生産状況(学際性・分野横断性など)の特徴を指標で測る。 (2) 学際研究実施後の状況の変化について調査する。学際研究の成果たる文献(特許)がその後どのように引用されていったか,学際性に違いのある文献(特許)を比べると文献のどの側面に特に差異が表れているか,また,どの側面への影響が大きいと推測されるかについて検討する。 (3) (1)(2)で得られた文献(特許)の生産状況のパターンに基づき,対象領域の特徴を整理する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度は,指標の標本量依存性を考慮した枠組みを導入し,前年度までの分析結果を検証する。本研究の指標が基礎を置く,論文発表数・引用数・単語出現頻度などのデータは,低頻度のソース(数編しか論文を生産していない著者など)が大部分を占める性質から,指標の標本量依存性が問題になり,分析結果の解釈において注意を払う必要がある。そこで,無作為部分標本抽出のモンテカルロ実験,および補間・補外の理論に基づいて指標の値の変化を推測し,本研究で直接扱ったデータの範囲を越えて,得られた結果を一般化できるか検証する。最後に,研究の総括を行い,成果をまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究遂行においては,研究成果を国際会議で発表するにあたり,インターネットによるヴァーチャル・プレゼンテーションを選択することで旅費支出を軽減した。また,計算アルゴリズムの効率化を工夫し,データ処理の負担を軽減したため,データ処理用コンピュータとして,交付申請時に予定していた金額よりも安価なコンピュータを購入して研究に用いた。そのことなどが理由で,次年度使用額が計上されている。この次年度使用額は,新たなコンピュータの購入などに充て,ビッグ・データ(500万件を超える特許のフルテキスト)を対象にした,より高度な分析のために用いる。その他の事項については,当初の交付申請時の計画どおり,研究資料,外国語論文の校閲,学会参加の旅費などに使用する。
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