学術論文および特許を対象に,学際的・分野横断的研究の特性を明らかにするための観点と指標を設定して,日本における研究開発の状況を分析した前年度までの研究結果を踏まえ,最終年度である平成25年度は,指標の標本量依存性を考慮した枠組みを導入して,本研究で直接扱ったデータの範囲を越えて,得られた結果を一般化できるか検証した。特許の学際性(引用分野の多様性)に関して,次の2つの視点から調査した:(1) 観察期間をひとまとめに共時的に扱い「特許と引用分野との結び付きの強さ」が一定と仮定した場合の,累積被引用数の増大(データの範囲の拡大)に伴う学際性の成長の期待値,および,(2) 累積被引用数が経年により増加するに伴う,学際性の成長の観測値。国立情報学研究所のNTCIRテストコレクションを情報源として,日本国公開特許公報全文データを用いた。分析結果から得られた主な知見は,次のとおりである。 (1)と(2)の比較から,個々の特許と分野との潜在的な結び付きの強さ(引用分野の生起の母集団確率)は,経年によって変化することが分かった。特に,化学・冶金,物理学分野の特許は,(1)と(2)の間のギャップが非常に大きく,最初限られた分野から繰り返し引用を受け,その後,それ以外の様々な分野に引用されるようになるという傾向の変化が,他の分野に属す特許よりも顕著であることが分かった。データの範囲を越えて結果を解釈する際には,これらの変化に留意する必要がある。 このような客観的指標に基づいて研究分野の特徴を計量する分析は,学術・科学技術政策への示唆だけでなく,「学際性とは何か」の再検討に資する知見が得られるという点でも意義を持つと考えられる。
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