研究課題/領域番号 |
23500313
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
西出 哲人 兵庫県立大学, 会計研究科, 教授 (60264834)
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研究分担者 |
森谷 義哉 兵庫県立大学, 経営学部, 准教授 (00275299)
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キーワード | 電子自治体 / 地方自治体 / 電子化 / 普及 / 空間モデル / 実証研究 |
研究概要 |
本研究では、地方自治体の電子化の現状を分析し、効率的に電子化を促進するための政策を提言することを目的としている。そのために、近隣の地方自治体が相互に影響している実態の把握を試みている。平成24年度は、「地方公共団体における行政情報化の推進状況調査」(総務省)のデータなどを利用して、電子化の進捗への影響要因と近隣自治体の影響について探索的に分析した。 具体的には、まず、電子化の進捗への影響要因に関する先行研究をあたった。すると、影響要因に関する研究は、コンセンサスが得られた事項が少ない段階で行われており、その結果は一様でないことがわかった。その理由として、地域や行政のレベルにより事情が異なるため、研究対象により影響要因が異なることが想定された。 そこで、総務省のデータを用いて、兵庫県の基礎自治体に影響する要因の探索を試みた。まず、電子化の状況について、ICTマネジメントに関するもの、サービス提供に関するもの、革新性に関するものの3つの指標を作成した。次に、各々の指標において、MoranのI統計量に基づく検定により、境界線を共有している自治体間の空間自己相関の有無を検証した。その結果、サービス提供、革新性に関する指標では、隣接自治体間に弱い相関が見られたので、各々を被説明変数としたSpatial Lag Dependence ModelとSpatial Error Dependence Modelを利用した分析を試みた。説明変数には、各自治体の自己相関と人口のデータを用いた。しかし、人口については有意だったが、空間自己相関に関するパラメータについては有意ではなかった。この結果については、未発表原稿にまとめたが、平成24年度中の出版には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、十分な成果が得られなかった。このような状況になった理由は3つある。最初の理由は、発表にまで至らない試行錯誤に、想定以上の時間がとられたことである。平成24年度の研究活動では、先行研究の文献調査を行ったが、人口以外は電子化に影響する要因としてのコンセンサスがなく、近隣の定義についても様々なものがあった。そのため、本研究でも改めて、影響要因や近隣の定義を探索する必要があった。具体的には、総務省の「市町村別決算状況調」などから、財政力や余剰資産に関連する要因のデータを収集し探索的に分析を試みた。しかし、人口と相関が高い項目以外に、有意な要因を見つけられなかった。また、近隣自治体の影響は住民が媒介している可能性があることから、国勢調査の通勤通学データから近隣自治体を定義し分析を試みた。しかし、兵庫県下の基礎自治体のデータからは、境界線の共有による近隣自治体の定義以上の結果は得られなかった。 二つ目の理由は、平成23年度「地方公共団体における行政情報化の推進状況調査」(総務省)に大幅な改変があったことである。このため、利用するデータの再構成や、電子化の状況を示す指標についての再考、分析方法の変更などが迫られた。これにより、平成23年度の活動を直線的に延長することができず、エフォートが割かれる結果となった。 三つ目の理由は、所属する機関の事情から、研究代表者と分担者が予期および回避できない作業に悩殺され、十分なエフォートを確保できなかったことである。 その一方で、研究分担者が地道にプログラムを作成し、試行錯誤が必要な分析作業の定型化や効率化が図れるようになった。これにより、今後の見込みがついた。 以上の理由から、平成24年度の達成度は「やや遅れている」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画段階から、平成24年度の活動の中心は、探索的で試行錯誤が必要なため、成果が出にくい時間であると想定していた。しかし、想定以上に成果をまとめる作業にエフォートが割けなかった。この反省をふまえ、まず、平成24年度中に作成した未発表論文の出版に向けた取り組みを行う。また、新たな論文をまとめる作業を並行して行う。 分析活動については、平成24年度の研究結果から、2つの方向性が明らかになった。まず、平成24年度の活動では、3つの側面(マネジメント、サービス提供、革新性)から電子化の指標を作成した。そして、各々の指標を用いて分析を行ったところ、指標ごとに近接自治体の影響の結果が異なった。近接自治体の影響の方法は、電子化の3つの側面で異なる可能性があることから、平成25年度の分析では、各指標の分析を進め、その差が意味する内容を考察する。また、電子化の3つの側面は、各々独立しているわけではない。そこで、これらの間に働く相互作用も考慮したモデルをSpatial Lag Dependence ModelとSpatial Error Dependence Modelの枠組みの中で作成して分析を試みる。 2つ目は、近隣自治体の影響を把握するために、分析対象を複数県に広げることである。平成24年度までの分析では、兵庫県の基礎自治体を対象として分析した。しかし、兵庫県内だけでは、人口と地理データの相関が強いため、空間的な要因の影響を評価できなかった。また、兵庫県の基礎自治体は他府県と比較して、電子化の状況の差も小さかった。そこで、分析対象を、兵庫県、大阪府、京都府の3府県や近畿地方全域に広げ、より一般的な傾向の把握を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、平成24年度の問題点を修正する。平成24年度は、非定型的な研究環境の変化を受け、試行錯誤が必要な作業が増加した。そのため、ほとんどの作業を研究代表者と研究分担者が行わなければならなくなり、研究補助の十分な活用ができなかった。今年度は、作業を効率化するために研究補助の効果的な活用を図る。具体的には、平成24年度中に研究分担者が地道にプログラムを開発したことから、データ解析の試行錯誤の作業をある程度定型化する道筋がついた。そこで、平成25年度は人件費を活用し、データ解析に関する作業をできるだけ研究補助に任せる。 次に、平成24年度は、情報収集や成果の発表等の活動にエフォートを割けなかった。平成25年度はこれを反省し、経営情報学会や社会情報学会への参加を積極的に進める予定である。そのため、学会等への参加に必要となる旅費を活用する。 また、平成24年度から継続した文献調査を続けるために、Information Systems Research (Informs)などの電子ジャーナルを必要とする。さらに、所属する大学にない文献のコピーや、時空間モデルに関連する図書の購入も欠かすことができない。これらに加えて、データ解析に必要なソフトウェアのアップデートをはじめとする分析環境の適切な整備を行ったり、資料整理や作業の効率化のための機器を調達したりする必要がある。これらのために、物品費を活用する。
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