研究課題/領域番号 |
23500314
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
津曲 隆 熊本県立大学, 総合管理学部, 教授 (90163881)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | サービスラーニング / 地域活性化 / フィールドワーク / 電子書籍 |
研究概要 |
平成23年度は参加学生が地域とのつながりを自発的に開発していくプロセスに重きを置いた予備的研究を行った。 被験者としては対象地域に対し予備知識を持たない4人の学生グループとした。これらの学生が地域で持続的に活動していくには地域の人々との密なつながりが不可欠となる。他者とのつながりをつけるスキルは社会人の基礎スキルであり、この活動はそうしたスキルの開発を促すものでもあった。 他者とつながりをつけるプロセスでは、ヴァルネラビリティがポイントとなるが、それを自覚して学生たちが実践していくよう学習プログラムを構造化しておいた。結果的に学生たちはフィールドワークを通して地域内に入り込むことに成功するのであるが、うまくいった理由として次のことが考えられた。地域と弱く接続されている人物(役場職員)を教員が媒介する形で引き合わせ、地域活動の相談をその人物を通して行うことで、行動を持続していく責任感が学生たちに生まれたこと。また地域に入り込むためには、その地域にとって興味深いツールを開発して持ち込んでいくことがキーポイントとなるということであった。そうしたツールは地域内のコミュニケーション活性化を促すことも観察された。 本研究では地域に持ち込む情報ツールとして電子書籍を今回使った。電子書籍開発に学生たちは苦労していたが、数か月にわたって学生たちを参与観察していると、開発効率向上のために徐々に専門分化しながら、最終的にはそれぞれが得意分野を持ち、そしてそのことが各人の自信を持つことにつながることが観察された。自己信頼の獲得は教育における大事な目標であり、今回、地域の中で行う教育手法の有用性を定性的ながら確認できた。また、このように学生たちが地域に入っていくことで地域内でのコミュニケーションが育まれ、地域の情報化を進展させていく上でこの手法の重要性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた地域(熊本県天草市)の地域ICTツールは予想以上に順調に稼働しており、ボランティア学生たちが不在でも自律的に持続的コミュニケーションを実現できていると判断できた。また、地域SNSも学生間ではその機能だけであれば定着してきており、学生にとって興味を惹くものではなくなっているとも判断し、研究開始前に対象地域を変更することにした。 それ以外は申請内容を踏まえた研究をほぼ推進してきたが、対象地域を変更したことで、予備知識のない新しい地域に学生入り込んでいくことが必要となり、その影響で進行が遅れた。しかしながら、学生教育という観点からすると、それは歓迎するものとなった。研究実績の概要で述べた通り、この過程を学生自らに行わせることで、学生たちに対し、異なる年代の他者との対話を行う場を設けることになったからである。また、学生という異分子の侵入ということを契機にして地域内でコミュニケーションが活性化されたことも認められたからである(具体的に言えば、地域内で活発な議論が起きて、次年度も継続的な活動を要望する地域の声が研究室に届いた)。 以上の理由により若干遅れてはいるものの、平成24年度の活動で十分に取り戻せる程度であり、特に問題はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は前年度に入り込むことに成功した地域(熊本県菊陽町)を対象に、地域の電子書籍による表現とソーシャルメディアサイトを活用して地域内コミュニケーションの活発化を促すことを目的にした学習プログラムを実践していく。 被験者となる学生たちは電子書籍づくりのノウハウは前年度までに修得しているので、平成24年度は地域を表現する実用的な書籍作りに挑戦させる。書籍に盛り込むコンテンツの情報収集のために対象地域のフィールドワークを行う予定である。フィールドワークは情報収集であると同時に、他者との対話訓練の場を学生たちに提供する。なお、これは、地域住民間のコミュニケーションを促していくことも狙うプログラムになっている。そうしたコミュニケーションを加速させるために、ソーシャルメディアを活用していくことを考えており、それが結果として地域の情報化を発展させるものと予想している。 平成24年度は、ソーシャルメディアサイトを立ち上げ、それを学生たちに運用させることも予定している。このサイトは、地域の人々のコミュニケーションを加速させるために設けるものである。ただしこれは、サイト運用を学生たちに任せ、活性化を進める方略を企画実践させていくことで、学生たちに対し具体的な思考の場を与え、問題解決力の育成を狙うという意図も含ませている。 以上述べた学生と地域とのWin-Winの関係を学習プログラムの中に埋め込み、それによる地域活性化の効果について今後は定量的検討を行なっていく。定量評価指標としてはソーシャルメディア内のコミュニケーション頻度を用いる予定である。ただしそれだけではなく、学生たちの参与観察による質的評価は継続すると共に地域住民に対してはインタビュー調査を行う。 最終年度の平成25年度には収集した評価データをもとに活動の総括を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は学生たちによるフィールドワークとソーシャルメディアサイト構築が主要な活動となる。予算はそれらの活動に向けた基礎文献の入手及び消耗品購入に使用する。
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