研究課題/領域番号 |
23500317
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
加藤 常員 大阪電気通信大学, 工学部, 准教授 (50202015)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 地理情報システム / 歴史情報 / Historical GIS / 旧境界線 / 村境界 / 空間情報 / シェープファイル |
研究概要 |
初年度に当たり、課題の中心である旧境界線のベクター形式でデータ化する手法の提案および試験システムの開発を主に研究を進めた。開発した試験システムを用いて、摂津国郡境界のデータ生成実験を行った。一連の研究成果は情報処理学会・2011人文科学とコンピュータシンポジウムにおいて報告を行った。 提案の手法は、地図上に明確に描かれた境界線をトレース的に計測する従来の手法と異なり、境界に関わる地域(領域)の大まかな形状を多角形で与え、多角形を形成する線分に対し、線分を核とするボロノイ分割により分割線を生成、分割線を境界線としてデータ化を行う方法である。線分を核とするボロノイ分割は実質的には点を核とするボロノイ分割を複数回繰り返すものであり、線分を複数の点で与える必要がある。そこでブレゼンハムの直線走査アルゴリズムを援用し、線分の両端点を元に補間点を設定する方法を考案した。 開発した試験システムは、提案手法に従った境界線データ生成系でベースマップを読み込み、ベースマック上で各領域の指定する多角形の頂点をマウスクリックにより入力する。頂点間に設ける補間点数は実行時に設定する。出力は領域間の境界線をベクターデータとしてCSV形式でファイルに書き出す。開発した試験システムを用いた摂津国郡境界のデータ生成実験では、従前の手法に比べ、約2割程度入力点数で同程度の境界線データの生成ができることが確認された。 提案した手法は作成した試験システムを用いた実験の結果から、従前手法と比べ大幅な作業量の削減になることが示された。また、本手法は確からしい概形領域を指定する方法であるため、見解が異なる境界線部分や湿地など境界線の不明確な個所も便宜的であるが境界線データを生成できる。このことは従来、歴史的境界線の空間データ化の障害となっていた不明確な境界個所への具体的な対応策を示した点でその意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題はHistorical GISで活用される過去の空間情報の現状を踏まえ、実践的に活用できる電子データ化手法の開発、開発をめざすものである。本年度は大きく1.藩政村の基礎史料の収集およびデータベース化の着手、2.主たる対象地域である摂津国および武蔵国多摩郡の藩政村境界に関する資料(史料)の収集および検討、3.不明確部分を含む境界線のデータ化の手法の検討・提案、4.提案手法による試験システムの開発、以上のの4つの項目を研究推進の方向とした。 各項目の進捗状況は、1については史料の検討に留まり、データベース化には至っていない。目的は異なるが他所において『地名辞書』等のデータベース化が進んでおり、その借用、利用を検討してる。2は、3,4に関連して摂津国について史料を検討、境界線生成実験に用いるベースマップの採択などほぼ計画の進捗であったが、武蔵国多摩郡については具体的な史料の収集、検討等までは至らなかった。3は従来の手法のデータ化の一連処理工程を検討し、明確でない境界線への対応を考慮した手法の提案、処理系の設計、インストール可能な手法の実験モデルを提示する段階まで当初の予定より研究を進めることができた。4については研究概要の実績で述べたように当初計画よりも進展し、試験システムの構築、具体的なマップを用いた摂津国郡境界データの生成実験まで推進させた。総合評価として研究の現在までの達成度はおおむね順調に進展していると考えいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の指針は、平成23年度に提案した手法および構築した試験システムを用いた旧境界線データ生成実験および生成された境界線データの有効性について検討、改良を行う。ベースマップ等の基本資料、藩政村に関する資料の取集、データベース化を並行して進める。その後に試験システムをベースに旧村境界生成システムを構築する。構築したシステムで旧村境界データの生成、蓄積を行うとともに、Historical GIS エンジンに取り込み、データを活用する特化した実践的な処理で生成データの使用を試みる。具体的な対象地域として摂津国および武蔵国多摩郡の藩政村についての空間データ化を目指す。 次年度は検討結果を踏まえ手法の改良、改善を行う。必要であれば前処理、後処理の提案、開発を行う。試験システムの入力多角形データの採取の仕方や配置状況による採取の仕様の変更など試行を繰り返し、より良いユーザインタフェースの開発を進める。具体的には1.本格的データ採取に対応した旧境界線多角形を生成方法およびシステムの設計、検討、構築に取り掛る。2.藩政村の代表点の設定方法を検討する。3.システム入力データおよびシステムで生成される旧境界線データをシェープファイルおよびCVS形式ファイル構成にする。4.構成されたファイルを先行研究「江戸時代における人口移動分析システム」で開発済みのGISエンジンに取り込む。必要に応じてGISエンジンの改良を行う。5.旧境界線ポリゴンの生成手法などについての成果を取りまとめ、報告(発表)を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究推進に当たり必要な主な費用は、1.提案手法およびシステムの実践的へ向けて試行錯誤的な開発に対応した環境を整える必要がありハードウェアおよびソフトウェアに関わる費用。2.『天保郷帳』『旧高旧領取調帳』からの藩政村の村名称の収集および村位置情報の計測、データベース化に関する謝金等の費用。3.境界線データ化の対象地域(摂津国および武蔵国多摩郡)の史料(資料)の調査・収集・整理・データベース化に関わる旅費、謝金等の費用。4.構築したシステムの試行実験および実験結果の整理、評価などに伴う謝金等を想定している。
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