研究概要 |
本研究はヒト視覚皮質における広域空間統合処理の性質を、注意による片側空間の要素の活性化が、群化により両側へと拡散することを反映する事象関連電位(event-related potential, ERP)を用いて検討した。最終年度は主に以下の成果を得た。 (1)課題負荷による注意焦点化が初期の注意拡散効果を調節するかを調べた。しかしこれまで頑健に生じてきた拡散効果が消失し、連結線の出現による注意補足が注意拡散を妨害したことを示す結果が得られた。これは左右に相同の刺激を用いたことで刺激文脈が単調になったためと考えられ、初期の注意拡散は定位反応に依存することが示唆される。 (2)領域共通性による注意拡散過程における性差を分析した。そこで刺激提示後約70 msから始まる初期の注意誘導効果は女性で大きいことが判明した。 研究期間全体を通して、本研究は一連の実験において3段階の注意拡散過程を同定し、ヒト視覚皮質における広域空間統合処理が一定の時間・順序で生じることを観察した。特に刺激提示後約150 msに外側後頭部で生じる統合処理は物体の同定に寄与し、群化要因の種類によらず図を表現する感覚増強メカニズムを介することが明らかにされた。その後200-400 msに生じる2段階の注意拡散効果は物体の出現に伴う事態に特異的に同定され、より高次の物体表象に関わるとともに、後者は焦点的注意の影響を受けることが示された。本研究はさらにそれら注意拡散過程に健常者の発達障害特性や性差による個人差があることも見出した。本研究成果は、ヒトの視覚皮質における統合処理過程の様相の理解と、個々人の視覚統合機能の評価方法の開発に寄与すると考えられる。
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