研究課題/領域番号 |
23500323
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
原田 悦子 筑波大学, 人間系, 教授 (90217498)
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研究分担者 |
須藤 智 静岡大学, 大学教育研究センター, 講師 (90548108)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 認知的加齢 / 学習 / GMLT 迷路学習 / プロトコル分析 / 記憶の二過程理論 / 人工物利用とデザイン / 潜在論理構造 |
研究概要 |
初年度である本年度は,人が人工物との相互作用の中で「背後にある潜在論理構造」をどのように獲得しているのか,その学習が健康な高齢者と若年成人の間でどのように異なるのかを明らかにしていくための認知的実験課題として,GMLT(Groton Maze Learning Test)をとりあげた.予備的な実験試行の後,まず,高齢者群と若年成人群の2群(各24名)について,発話思考を伴う形での実験を行った. まず従来用いられてきたGMLT課題の諸行動指標において,加齢の効果,性別の効果,課題実施時間の効果がそれぞれにあることを示した.次に,迷路課題を複数回繰り返し解く際に生じている学習の様相を明らかにするため,発話思考法で得られた発話プロトコルデータおよび操作ログ・画面録画で得られた行動プロトコルデータを統一して分析を行い,その結果,1)直接的な学習の指標として,平均連続正答数が有効であること,2)特に顕著に見られる学習時の方略4つを抽出,その出現数をカウント,分析したところ,若年成人は1試行目の「直線・ゴール方向方略」から3試行目以後の「顕在的な記憶想起方略」への移行を示すこと,3)高齢者も第1試行では「ゴール方向方略」(直線・ジグザグ方略を含む)を示すが,2試行目以後も明確な方略移行がみられないこと,4)若年群での顕在的な記憶想起と異なり,高齢者群では「エラーを含めての同一操作の流れ」が複数試行間で見られ,自動的記憶の利用がみられること,を示した. 次に,原型のGMLTに潜在論理構造を知覚的な手がかりとして示す情報を付加した課題を作り,高齢者/若年成人群で実験を実施した.詳細は分析中であるが,高齢者群においても論理構造の知覚的顕在化は学習に有効であること,しかしその利用は意識的・意図的ではないことが示されつつある. 他の認知課題得点との関係も含め,さらに分析を深める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GMLT実験により,学習における加齢の効果が方略の違いとして明確に示されつつある. 今年度第2実験として実施予定であったerrorless/errorful学習の比較実験については,H24年度に実験を行うこととし,その代わりに(H24年実施予定であった)知覚的手がかり情報の付加(潜在論理構造の知覚的顕在化)の効果について先に実験を開始し,現在,分析が進みつつある. また,こうした学習過程に関連する認知的過程を明らかにする研究として,エラー反復現象と加齢,認知的加齢に伴う課題切替,distractor情報の記憶についても引き続き研究を進め,理論的な統合を試みている.加えて,新しく加齢に伴う聴覚情報による談話理解実験を始め,加齢に伴う方略変化として視覚情報への依存現象が示されつつある.これらの知見も含めて,統合的な「問題解決過程を通じての学習過程とその加齢変化」についてモデル化を試みていく準備段階が整いつつある.
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今後の研究の推進方策 |
GMLTを用いた,問題解決過程の反復にみられる学習の様相については,第1実験(オリジナルの課題+発話思考,プロトコル分析),第2実験(知覚的手がかり情報を付加したGMLT)の分析を進めながら,今年度からは新しく第3実験として,高齢者と若年成人の差をさらに明確にするために,errorless/errorful学習がもたらす効果とその年齢間比較についてGMLT実験を行う. また第2実験からの展開として,潜在論理構造の情報表示をどのように変化させることによって,学習過程への影響がどのように変化するか,いくつかの情報デザインの比較という形で検討を行う. これらの実験から,高齢者にとっての問題解決過程に基づく学習を支援する要因とその具体的な支援方法(デザイン)について仮説化し,実験課題の中の研究要因として組み込み,検証していく予定である. 最終的な研究目的としては,そうした支援方法が実験室課題での効果にとどまらず,実際の人工物利用における学習支援となっていくことが必要である.このため,実験室での認知的課題と人工物利用による研究との関係性についての検討も含めて,実験室実験とフィールドでの実システムでの効果の間の行き来を容易とするための理論枠組・共通特性記述法を検討する理論的・方法論的検討も行いながら,研究を進めていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き,二つの年齢群間で学習過程の相違を分析していくため,実験に関わる経費(消耗品ならびに参加者謝金)として使用する.まだ,第1実験の研究成果を発表するための旅費として,利用していく予定である. H23年度に2台購入予定であったタッチパネル型PCは,実験を3名以上同時に実施する計画に変更になったことから,同型の機種がある3台以上ある既存PCで代用した.しかし(a)タッチパネルの機器仕様が向上してきているため,新型の機器利用が望ましいこと,(b)今後も複数名での実験実施を行っていく必要があること,から,今年度,タブレット型PCの利用可能性(プログラミング可能性)も含め,実験機器についても再度検討を行っていく.
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