研究課題/領域番号 |
23500328
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 正之 京都大学, 野生動物研究センター, 准教授 (80280775)
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キーワード | 系列学習 / 作業記憶 / マンドリル / アラビア数字 |
研究概要 |
平成24年度は,マンドリル3個体を対象として,アラビア数系列を用いた系列学習課題を訓練するとともに,課題に関する作業記憶容量を調べる研究を行った。アラビア数系列を用いた系列学習課題における作業記憶容量については,Inoue and Matsuzawa (2007)において詳細に調べられ,刺激提示時間によってはヒトよりも優れた能力を示すことが知られているが,この能力の起源を調べるべく,オナガザル科のマンドリルを対象とした比較検討を行った。マンドリルは1から昇順に数字を選ぶ課題をおこない,それぞれ6,7,8までの系列の学習を達成した。作業記憶容量を調べる実験では,アラビア数字の1から5,または1から6までの数字をタッチスクリーン付ディスプレイ上のランダムな位置に提示し,最初の数である1に触れたときに,2以降の数が市松模様の正方形でマスクされ,被験体がマスクされた状態で各系列の正反応率と反応時間を調べたところ,第2系列(数字の2)まではマスクをしない条件での正反応率,反応時間とほとんど差がないことがわかった。一方,第3系列以降の正反応率は急激に低下し,反応時間は逆に有意に増加した。これは実験をおこなった3個体すべてに共通して見られた傾向であり,マンドリルが本課題において,第1系列への反応時に,すでに次系列の位置を把握していることが示唆された。その一方で,同様の課題においてチンパンジーで見られたような,すべての系列の位置を把握しているという証拠は得られなかった。 平成24年度は,上記課題と並行して,オナガザル科の分類群別の視覚的選好性を調べる研究を行った。マンドリルと系統的に近縁種の写真をマンドリルの写真とともに提示し,マンドリルの自発的な選択の傾向を調べた。メスのマンドリル幼児2個体では,明瞭な選択傾向は見られなかった。次年度に発達的変化を調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マンドリル3個体を対象とした系列学習の訓練は順調に進展し,作業記憶を調べる実験も完了した。被験体となった個体は動物園所有の個体であったため,本研究の期間中に他の動物園に移動したが,移動先の動物園の協力を得て,実験の継続は可能となった。マンドリルの視覚的選好性を調べる実験では明瞭な結果を得られなかったが,被験体が性成熟前の幼児であったためかもしれず,次年度以降に継続調査をおこなう予定である。平成24年度中に新たにマンドリル2個体の訓練を開始したので,被験体数を増やす見込みもたった。以上の理由から,計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる25年度は,被験者数を増やすために,現在訓練中の京都市動物園飼育のオスメス2個体のマンドリルを対象とした訓練を継続する。また,この2個体の間に赤ん坊が生まれる可能性があり,赤ん坊が生まれればその個体も被験者として加えていく予定である。2個体はいずれもタッチパネルに対する訓練が完了し,アラビア数字の系列学習を開始したところである。2個体とも性成熟に達した大人個体であるので,学習のスピードは期待できないが,毎日訓練可能な京都市動物園の個体であるため,確実に前3個体と同様のテストの実施はできる。 25年度は,昨年度,オナガザル科のサルの写真に対する視覚的選好性を調べたマンドリル幼児2個体,およびタッチパネル訓練が完了した大人2個体を対象としたテストを継続しておこなっていく。幼児2個体では明瞭な選択傾向は見られなかったが,これが発達的な要因によるものかどうかを,大人個体を被験者に加えることで検証する予定である。また,昨年度山口県周南市徳山動物園において共同研究としてマンドリルの実験を開始することができたが,引き続き被験者確保の努力を続け,他の動物園で飼育されているマンドリルに対しても実験の可能性を探る予定である。 系列学習遂行時のマンドリルの作業記憶容量と方略に関しては,25年度中に論文として投稿し,公表する予定である。また,動物園において研究を実施している利点を活かして,積極的に研究の意義を来園者に伝える努力を継続する。園内でのミニトーク,一般向け掲示物,さらに動物園HPを使った研究紹介を行っており,25年度も継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では,タッチモニターを消耗品的に使用している。サルが直接触る装置であり,画面の消耗は激しい。このため,共同研究先の動物園での交換分も含めてタッチモニターを4台程度購入する必要がある。現在は大画面の液晶タッチモニターの価格が下がっているが,サルのサイズ,視界,また可搬性を考えると割高であってもこれまで使用してきた15インチサイズのタッチモニターを使用せざるを得ない。また,実験に使用するノートPCも屋外での使用のため,比較的消耗が激しく,23年度から使用してきたPCでは交渉し交換せざるを得なかったものもあるため,実験用のPCの費用も物品費に計上する。 また,他の動物園での実験および研究打ち合わせのための国内旅費を使用する。25年度はさらに共同研究実施先を開拓するためにも,国内の他の動物園への旅費を多めに計上する予定である。また,実験の際に補助者が必要とする場合があるため,謝金を使用する予定である。
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