平成26年度には、それまでに行った数の大小判断に関する心理実験の結果について新たな分析を行い、反応時間の分布に基づいて参加者の心的数直線を可視化することを試みた。その結果、心的数直線の形状が個人間で異なることが明らかになった。 研究期間全体で得られた成果は次の通りである。心的数直線に関する従来の研究では、参加者に共通してみられる特性が注目され、その個人差についてはいくつかの研究で言及されながらも、十分な検討が行われてこなかった。本研究では、共感覚者に見られる数字列形(ナンバーフォームズ)の多様性は、非共感覚者においても心的数直線が多様であることを意味しているという仮定に基づき、二つの数の大小判断課題を用いて、心的数直線の多様性について検討した。その結果、下記の結果が得られた。 1)数字ペアの位置関係が反応時間に与える効果は個人間で異なっていた。個人内での統計解析により、個人ごとに異なる傾向が有意にみられることを示すことができた。また、測定された心的数直線は、必ずしも左から右に向かっておらず、右から左に向かう場合、下から上に向かう場合、途中で折れ曲がる場合などがあった。 2)反応時間の分布に関する分析により、数字ペアの位置関係による反応時間の違いは、数字の空間的位置関係を確かに反映しており、実験参加者の心的数直線の推定ができていることを確かめられた。 以上の結果は本研究の主要な仮説「異種感覚次元間の自己組織化学習は非共感覚者においても行われている」を支持している。自己組織学習においては外部からの教師入力がないため、学習の結果は入力パタンの類似性を反映しつつ、多様性を持つためである。本研究の成果は、数の脳内表象である心的数直線の形成過程に関して、計算論的観点から新たな知見を付け加えるものである。
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