研究課題/領域番号 |
23500334
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
菊池 眞之 東京工科大学, コンピュータサイエンス学部, 講師 (20291437)
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キーワード | 視覚科学 / 3次元物体 / 両眼立体視 / 凹凸 / 心理物理実験 |
研究概要 |
2次元のランダム閉曲線刺激から知覚される3次元物体表面構造について,心理物理実験ならびにデータ解析によって調べた.5人の被験者に対してそれぞれ,円をガウス関数で変調して生成した60種類のランダム閉曲線を順次呈示した.各閉曲線の内部に数十か所のプローブ刺激を順次呈示する.被験者はプローブと閉曲線との相対的な奥行関係を調整する.この実験により得られた3次元的な表面の構造を,2次元閉曲線の各種パラメータならびにそのスケルトン(中心軸)から回帰することを試みた.その結果,プローブの2次元的位置と輪郭との距離が主要な奥行決定のファクターであることが明らかになった.また輪郭の曲率やスケルトンも奥行の決定に関与することも同時に示唆された. 一方,遮蔽により一部のみが可視の回転運動を行う3次元物体の運動知覚と,運動物体の3次元的な凹凸構造との間の関係について調べる心理実験も実施された.2つの平面が観察者に対して凹状/凸状に接合された刺激をダイナミック・ランダムドットステレオグラムによって表現する.2平面の接合部となる直線が鉛直方向になるような配置とし,物体は鉛直軸を中心とした並進回転運動を行う.被験者は2つの表面の外縁部や接合部を含まない平面内部のみを2つの覗き窓を通して観察する.このような刺激において3次元的なaperture problemが生じ,片方の覗き窓だけでは奥行き方向の往復運動のみが観察され,物体全体の回転運動は定まらない.2つの覗き窓からの運動情報を統合することで全体の回転運動が決定される.被験者はランダムに決定される回転運動方向を回答することが求められる.実験の結果,2平面が凸構造のほうが凹構造のときよりも優位に正答率が高くなることがわかった.この結果は凹構造に対する凸構造の有意性が運動知覚においても成り立つことを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物体認識における凹凸各特徴の寄与の度合いに関する研究については,自己遮蔽の生じない不透明パターンを,相対的に手前に注視点を設定しつつ観察する場合,観察者に対して凸となる特徴に対して凹特徴よりも顕著に寄与することを明らかにしているが,半透明刺激を用いた観察者に対して奥側の面に存在する凹凸特徴のパターン認識への寄与についての研究は予備実験段階であり遅れが生じている.しかし,以下に述べるような研究の着手順序の入れ替えや,極めて関連の深い実験の追加等についても考慮すべきである.最終年度に実施が予定されていた尾根/谷状の折れ線のパッチ群を用いた輪郭統合課題については,折れ曲がり方の極性が統一されている場合に輪郭統合が生じやすいという予備実験成果が得られている.また,初年度から継続実施している2次元閉曲線からの3次元構造の復元知覚の研究については,実験結果からのデータマイニングによる傾向の抽出を行えている.そして当研究課題に密接に関連する3次元運動平面群物体の運動統合知覚の実験では,凹特徴に対する凸特徴の知覚的優位性などの知見が獲得されている.これらを考慮すると一概に遅れているとも言えず,おおむね順調な推移との評価が妥当であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本来予定されていた3年次目の課題である,尾根/谷状の折れ線のパッチ群を用いた輪郭統合課題については,輪郭統合のみならず輪郭を表現するために描かれるローカルな面同士の統合が生じる可能性も考えられる.そこで,輪郭要素のない,面同士の統合が生じるのか否かを調べる検証実験を実施する. 2年次目の計画に挙げられていた3次元凹凸特徴の物体認識への寄与については,これまで行ってきた予備実験をもとにして,本格的な実験へと移行させる.空間的注意を向ける個所が知覚に影響を及ぼす可能性を考慮し,購入済みの視線計測器でのリアルタイム計測を行うこととする.
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次年度の研究費の使用計画 |
データ解析ならびに研究成果の発表に適したノートPCを購入する.また,引き続き実施する心理物理実験の被験者への謝金も捻出する.さらに,研究成果を発表するための投稿料や発表の為の旅費にも予算を充てる.
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