【行動実験】 洞察問題解決における意識的処理の関与について検討した。具体的には,解決者が自らの問題解決過程を意識的にモニターすることが可能かどうかを検討した。参加者はTパズルを解くことと,1分ごとに「どのぐらい解に近づいているか (warmth評定)」を評定することを求められた。その結果,解決できた参加者では,実際の解決状況は徐々に解に近づいていたにもかかわらず,warmth評定はそれに対応しておらず,解決の直前になって高い値を示していた。一方,未解決の参加者は,課題全体を通して低いwarmth評定値を示しており,ピースの配置も解に近づいてはいなかった。以上より,洞察問題解決過程を意識的にモニターすることは困難であり,無意識的なプロセスが関与している可能性が示唆された。 【計算機モデリング】 (1) マルチエージェントシミュレーションを用いて,個人間の情報交換を介したイノベーションの創発可能性について検討した。その結果,技術伝達モデルにおいて「イノベーター」と呼ばれる,多くの情報を有し,積極的に新しい情報・技術を導入する個人は,「情報過多」となり,イノベーションを起こすことが困難となることが示された。一方,技術伝達モデルで「アーリー・アダプター」と呼ばれる,「イノベーター」より知識が少なく,新技術への積極性が低い個人において,イノベーションが起こる頻度が高いことがわかった。この結果は,「アーリー・アダプター」は「イノベーター」によって導入された技術をイノベーターより少ない知識で評価するため,結果的に過学習や過剰一般化を避けることが可能となったものと考えられた。 (2) 異なる性質や価値観をもつグループが存在する場合,他者とのコミュニケーションにより,全体としてパレート最適な知識群,つまり,事象の本質を見通すことが可能となる知識の集合を形成できるということが示された。
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