蛋白質の天然状態の立体構造は、次々と明らかにされてきたが、変性状態に構造があるか、あるとしたらどのような構造かについては全くわかっていない。その理由は、変性状態の蛋白質が、溶液中で動きやすく、実験的な手段で研究することが困難だからである。本研究の目的は、蛋白質の熱安定性が、天然状態と変性状態の自由エネルギー差で決まっていることに注目して、超好熱菌の蛋白質RNaseHIIの変性状態の構造を、アミノ酸置換による熱安定性変化を通して推定することである。すでに、RNaseHIIについて、すべてのLeuとIleをAlaに置換した変異体について、熱安定性が測定されている。そこで、筆者と研究室の学生は、分子動力学シミュレーションを基にした自由エネルギー摂動計算を行って、それらの変異体蛋白質の天然状態と変性状態の熱安定性自由エネルギー変化を求めた。この際に、変性状態の構造がわかっていないため、様々な構造を仮定した。変性状態の構造に応じて、自由エネルギーの値は、敏感に変化した。しかし、変性状態の特別な構造のみ、熱安定性自由エネルギーの計算値が実験値と一致した。すべての計算には、フィッティングパラメタや任意パラメタを使っていないことから、計算値と実験値の一致は、仮定した変性状態の構造が正しいことを意味している。これらの結果を総合した結果、超好熱菌蛋白質RNaseHIIの特定の部位は、変性状態においても天然状態に類似の立体構造をとっていることが明らかになった。
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