研究課題/領域番号 |
23500367
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
北島 博之 香川大学, 工学部, 准教授 (90314905)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 不整脈 / 心臓数理モデル / 分岐 |
研究概要 |
本年度は下記の2点に焦点を絞り,研究を行った.1.数理モデルの作成とその解析ペースメーカ細胞から刺激電流が流れて心筋細胞へ伝わる部分のモデル化を行った.心筋細胞モデルとしては従来型のLuo-Rudyモデルを使用したが,細胞の膜電位の値によって系が切り替わるハイブリッド系(不連続系)での記述となっていた.数値計算,特に分岐解析を行う場合は,ハイブリッド系は非常に煩雑な計算が必要となるために,シグモイド関数を用いて連続系への変換を行った.各種パラメータ平面で観測される現象が元の不連続系と提案した連続系で変化がないことを確認し,変換がうまくいったことを示した.その修正した式を用いて解析を行った結果,細胞外カリウムイオン濃度が上がると交互脈が起こることがわかった.これらの結果は,ペースメーカ細胞からの電流が正常であっても,心筋細胞の細胞外カリウムイオン濃度が高まると交互脈が起こることを示している.2.解析の高速化GPU(Graphics Processing Unit)を用いて分岐解析用のプログラム(簡略版)を開発した.従来のCPUを用いて並列化を行った場合よりも約50倍の高速化を実現できた.解析結果も正しいことを確認した.更にはFPGA(Filed Programmable Gate Array: 書き換え可能なLSI)を用いた高速化にもチャレンジし,簡単なシステムの解析を行い,CPUよりも約100倍の高速化が得られることを確認した.これらの結果を,分岐解析アルゴリズムに適用することにより,詳細な解析を高速で行うことが可能となる.それらは心臓数理モデルに限らずに,数理モデル一般に適用することが可能であり,モデル解析の高速化が可能となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心臓数理モデルの解析を通して,死の予兆と言われている交互脈の発生要因の一つとして「細胞外カリウムイオン濃度の上昇」を特定した.細胞外カリウムイオン濃度が上昇すると,交互脈が表れやがて心筋細胞の膜電位が閾値を超えずに筋肉が動かなくなり心停止へと至る現象を数理モデルで再現できた.細胞外カリウムイオン濃度が種々の他のパラメータに及ぼす影響を調査し,時間非依存カリウムイオン電流の平衡電位が高くなると,交互脈が発生することを見出した.数値計算の高速化では,GPUを用いた簡略化分岐解析プログラムを作成し,従来のCPUを用いた並列処理よりも約50倍の高速化を実現できた.従って研究は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
現在作成した数理モデルはペースメーカ細胞から心筋細胞へ刺激電流が伝わるだけのモデルであるので,今年度は中枢神経系も含めた心臓数理モデルの構築に着手する.その数理モデルを用いて,交互脈を始めとして様々な不整脈をコンピュータ上で再現する.数理モデル上で現象の再現が出来れば,それらの現象のパラメータ(細胞外イオン[ナトリウム,カリウム,塩化物,カルシウムイオン]濃度,イオンコンダクタンス(イオンの細胞内外への移動のしやすさ),各種イオン電流の平衡電位,パルス刺激電流の強度や周波数等)依存性を数値分岐解析の手法を用いて正確に調査する.パラメータ依存性が分かれば,どのパラメータがいくらぐらい変化すれば正常な脈に戻るのかがわかるようになる.それらの数値計算は時間が非常に掛かることが予想されるので,GPUを用いた並列処理プログラムの開発を行う.GPUのプログラムは簡略化版が平成23年度に完成し,約50倍の高速化を実現済みである.今後は,詳細な分岐解析を行うためにそれらのプログラムを拡張する必要がある.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度中に論文を投稿したが,査読結果が予定よりも遅れたために論文掲載費として用意していた約10万円が次年度使用となった.その論文は採録が決まったので,平成24年度に掲載料と英文校正料を支払う.平成23年度に行ったその他の研究を纏めて,スペインで開催される国際会議において発表予定(現在投稿中)なので,外国出張旅費として使用する.
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