無配線分子コンピューティングの可能性を総合的に検証するために,集積回路工学と計算機科学の観点から,下記の2項目の取り組みを並行して実施した. 1.集積回路工学の観点から:(1)分子回路の構成に関して機能的に完全な人工触媒素子の機能モデルを定式化した.また,この人工触媒素子をマイクロ電極デバイスとして実現し,これを2次元配列状に集積化した人工触媒素子チップを開発した.マイクロ電極の協調動作により,チップ上の微量溶液中に人工的に制御された2次元反応拡散場を創出することを試みた.これは無配線集積回路の動作原理を実証する重要な成果である.(2)最終年度の成果:各種の人工触媒素子ネットワークを設計するとともに,これまでに試作した2次元人工触媒素子チップをプログラムすることにより,その動作を確認した.特に,興奮場の反応拡散ダイナミクスをチップ上で再現し,動的に伝搬する反応拡散波の発生を確認した. 2.計算機科学の観点から:(1)人工的な反応拡散場を利用した新しいコンピューティング/信号処理モデルを検討した.これは究極的には人工触媒素子チップにおいて完全並列に実現することを想定するが,用途によっては本研究者らのグループが提案する「ディジタル反応拡散システム(DRDS)」と呼ぶ非線形多次元フィルタの枠組みを利用して,シグナルプロセッサ上で実現することも可能である.DRDSを用い,(a)生物系テクスチャ画像の生成,(b)指紋画像の復元,(c)2次元経路探索,(d)ボロノイ図生成などのアルゴリズムを検討し,計算機シミュレーションにより検証を行った.これはある種の並列計算の可能性を示唆する有用な成果である.(2) 最終年度の成果:これまでに検討した応用(a)~(d)のアルゴリズムを数値解析用ソフトウェアMATLAB上において実装し,総合的な評価を行った.
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