研究課題/領域番号 |
23500379
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡本 洋 独立行政法人理化学研究所, 脳回路機能理論研究チーム, 客員研究員 (00374067)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ヒックの法則 / ヒューマンコンピュータインタラクション / 意思決定 / タイミング / 神経機構 / モデル / 皮質回路 / ウェーバー則 |
研究概要 |
ヒックの法則:多肢択一に要する時間(反応時間)は、選択肢数の対数の一次関数で表わされる。ヒックの法則は、ユーザインタフェース設計やユーザビリティ評価における指針として、広く実用に供せられている。それにもかかわらず、この心理物理経験則の背景にある神経機構については、ほとんど何もわかっていない。本研究の第一の目標は、ヒックの法則の神経機構を説明するモデルを世界で初めて構築・提案することである。 多肢択一における反応時間のゆらぎと選択肢数との関係についても、実験的あるいは理論的知見はこれまでなかった。本研究の第二の目標は、反応時間のゆらぎと選択肢数との間の定量的関係をモデルから導き、これを実験への予言として提案することである。さらに、実際に心理物理実験を行ってこの予言を検証することが、本研究の第三の目標である。 皮質におけるミニカラム構造および抑制性ニューロンの多様性を考慮した皮質回路モデルを構築した。各選択肢に対応するニューロン群があり、これらのニューロンの活動が、対応する選択肢が選択されている度合を表わすと仮定した。 シミュレーションによる解析の結果、一つのニューロン群の活性がしばらく漸次的に増加した後、急激に増加し、それに伴って他のニューロン群の活性が減少することがわかった。前者の活性が急激に増加するタイミングを反応時間として定義すると、その平均値がヒックの法則に従うことがわかった。さらに、同じ選択肢数に対して反応時間は試行毎にばらつくが、その標準偏差は反応時間平均の一次関数で表わされることがわかった。 なぜモデルがヒックの法則を再現するのか、そして、なぜ反応時間のゆらぎが平均に対して線形になるのかを、統計力学的手法を用いて解析的に明らかにすることも試みた。これについては、まだ最終的な結果を得ておらず、次年度も解析を続行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度における研究の主たる目標は、ヒックの法則を再現する皮質回路モデルを構築すること、このモデルから反応時間のゆらぎと選択肢数との間の定量的関係を導くこと、およびこの関係を心理物理実験への予言として提示することであった。これらに関しては、完全に達成した。これらの成果を人工知能学会全国大会(オーガナイズドセッション「脳科学とAI」)、日本神経科学大会およびNeuroscience 2011で発表し、人工知能学会からは優秀賞を授けられた。 一方、モデルからの予言を検証するための心理物理実験の準備を、当該年度中に開始する予定であったが、スパイクニューロンを用いたモデルの拡張等に工数を取られ、着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
スパイクニューロンを用いたモデルの拡張は、提案する神経機構の神経生理学的現実性を裏付けるためのものであり、神経科学著名誌への論文掲載のために不可欠の作業と認識している。次年度前半中にこの作業を完了させる。 予言を検証するための心理物理実験の準備・実施については、本来、上記のモデル拡張とは並行して進めることができる作業である。次年度後半に第一回目の実験の結果が得られるよう、準備・実施のスケジュールを再調整する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費を心理物理実験実施のために使用する(被験者謝礼金、人材派遣会社手数料、実験機材(PC、ボイススイッチ、等)購入、実験会場使用料、等)。成果発表のための国内・国外出張に研究費を使用する。 当該年度において、未使用金272,404円が発生したが、これは、心理物理実験の準備(人材派遣会社相談、実験機材購入、等)のための費用に相当するものとして、予算されたものである。[現在までの達成度]に記したように、実験の準備および実施を次年度に行うことにしたので、上記未使用金については、次年度に当初の目的のために使用する。
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