研究課題/領域番号 |
23500379
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡本 洋 独立行政法人理化学研究所, 脳回路機能理論研究チーム, 客員研究員 (00374067)
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キーワード | ヒックの法則 / ウェーバーの法則 / 意思決定 / 決定時間 / 神経機構 |
研究概要 |
Hickの法則:n通りの選択肢から一つを決定するのに要する時間はnの対数の1次関数で表わされる。Weberの法則:被験者にある長さの時間(標的時間)を提示し、次に同じ長さの時間を再生させたとき、再生時間の平均値と標準偏差との比(Weber比)は標的時間によらず一定となる。本研究の目的は、意思決定時間に関するこれら二つの心理学経験法則が共通の神経機構に由来することを証明することである。そのために、神経機構モデルの構築・解析を通じて、Hickの法則が成り立つとき、Weberの法則も成り立つ(すなわち、Weber比が選択肢数に関わらず一定になる)ことを示す。さらに、モデルが予言する「選択肢数と決定時間のばらつきの大きさとの間の規則性」を、実際の心理物理実験で確認する。 昨年度は、神経機構モデルを提案し、Hickの法則が成り立つときにはWeberの法則も成り立つことを、数値実験で確認した。本年度は、二法則が両立する条件および理由を解析的に明らかにすることを試みた。モデルのパラメタ(シナプス強度、ノイズ強度、他)に対して、Hickの法則が成り立つための条件を定めることができた。さらに、Hickの法則が成り立つための前提条件の下で、Weber比が一定となることも示した。 本研究遂行の過程で、意思決定の神経機構モデルを用いて、ネットワークからコミュニティを抽出できることに気付いた。ネットワークにおいて、その内部ではリンクの濃度が密であり、その外部とはより疎に繋がる部分(かたまり)のことを「コミュニティ」とよぶ。効果的・効率的なコミュニティ抽出アルゴリズムの開発は、近年ネットワーク科学における中心課題である。意思決定神経機構モデルによるコミュニティ抽出を、人工ベンチマークネットワークおよび実際の社会ネットワークを用いて試した。これらのネットワークの正解コミュニティ構造が正確に再現された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
数値実験によれば、Hickの法則とWeberの法則の成立は必要十分の関係にある。すなわち、前者が成り立つならば後者も成り立ち、前者が成り立たなければ後者も成り立たない。一方、本年度に実施した理論解析によれば、Hickの法則が成り立つためのパラメタ条件を求めるための前提の下では、Weberの法則が常に成り立つ。すなわち、この前提の下ではWeberの法則が成り立っても、Hickの法則が成り立たない場合がある。これは数値実験の結果と合わない。本年度内では、この矛盾を解決するに至らなかった。そのため、次の段階であるところの、モデル予言検証のための心理実験の準備・実施に進むことができず、研究実施計画からの遅れが生じている。 一方、本研究で用いている意思決定神経機構モデルを、ネットワークからのコミュニティ抽出に応用することの可能性が新たに見出された。本年度のエフォートを、この可能性についての確認および初期的評価にも費やした。その成果をネットワーク生態学研究会で発表し、一般講演優秀賞を獲得した。
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今後の研究の推進方策 |
神経機構モデルに関する数値実験と解析計算との間の矛盾の原因を究明し、これを解消する。 モデルが記述する神経活動時間発展の初期状態に注目することにより、矛盾の解消は可能であると考えている。 モデルの予言検証のための心理実験の準備を行う。心理実験を実施する。実験で得たデータを分析し、モデルの予言との整合性を確認する。研究加速のために、海外を含む心理実験の専門家との協業を検討する。 新たに派生した課題「意思決定神経機構モデルによるネットワークからのコミュニティ抽出」について、本格的な評価を行う。コミュニティ抽出に関する競合アルゴリズムを定め、コミュニティ抽出性能を定量的に比較する。本課題への取り組みは、研究実施計画作成段階では予期していなかったものであるが、計画の大幅な変更を要するものではない。むしろ、要求本研究の価値を傍証するための作業であると認識している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画では24年度に心理実験の準備を予定しており、そのための費用(被験者募集のための人材派遣会社への手数料支払い等)を見込んでいた。しかしながら研究途上で、研究計画の段階では明確に意識していなかった新たな可能性(ネットワークからのコミュニティ抽出)が見出されたので、24年度中はこの可能性を具体化することを優先した。そのため、心理実験のための費用が未使用となり、次年度使用額が発生した。本金額については、当初の計画に則って心理実験を完遂すべく、25年度請求額と合わせ、下記の通り使用する予定である。 当該研究領域における動向調査および本研究に関する成果発表のための国内外主張旅費として、研究費を使用する。国内出張2回、外国出張2回を予定。 心理実験準備・実施に研究費を使用する。人材派遣会社等への被験者募集仲介手数料支払い、被験者への謝金支払い、実験のための器具購入を予定。当該領域における心理実験専門家(主に海外)との協業を行う場合には、そのための渡航費用に科研費を使用する。
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